フットワークの軽さが生んだ、女性向けという名のポルノ

 それにしても、V&Rプランニングはなぜ女性向けサービスを始めたのか。
メーカーに直接聞いたわけではないから想像の域を出ないが、このころ衛星放送の視聴率調査から昼間にアダルトチャンネルを観ている専業主婦の存在が示唆され、不況気味だったAV業界が女性を新たな市場として見出したと言われている。
さて隙間産業を開拓していきますか、というときに、マニアックでアバンギャルドな作品を得意としていたV&Rプランニングのフットワークが軽かった、ということではないか。

 だが、V&Rプランニングの女性向け事業が成功を収めたのかというと、それはよく分からない。まあ、宅配サービスは1500人の会員すべてが継続的にレンタルしてくれるはずはないから、運営費用はかからなかっただろうが、売り上げもそれほどなかっただろう。
オリジナルの女性向けAVもあまり売れなかったのだと思う。売れて、業界に爪痕を残していたならば、現在もっと知名度があってしかるべきだ。

 ポルノグラフィをめぐるフェミニズムの議論をめちゃくちゃ大ざっぱにまとめると、当初は「ポルノの視聴者は男性である」という暗黙の前提から「ポルノは男性が女性を消費する構造があり差別的だ」という主張が多かったのに対し、徐々に「女性が無垢で純粋でポルノなんか観ないかのようなステレオタイプもまた問題だ」という流れに変わっていったように思う。
「女はポルノを観る」というかたちでそのようなステレオタイプは解消されつつある。しかし女性向けAVの傾向は、SILK LABOの一定の成功によって「女の子は、ラブラブで汁気のない、清潔でソフトなエッチが好きだよね!」と、要するに良くも悪くもステレオタイプ的な「女性」に向けて作品を撮るようになったと思われる。

 「女はポルノを観る」の次にあるステップは、「女性向けポルノが男性向け作品と同等のレベルに多様化する」というかたちでジェンダー差を解消していくことだろう(SILK LABOはAV初心者向けのコンテンツをあえて制作しているのであって、この目標を持っていないわけではないということは承知しているし、男性向けメーカー側からの歩み寄りも重要である)。
ただ、当時にしてみれば、V&Rは先見の明がありすぎたのだろう。その意図が何であったにせよ、少なくとも表面上、段飛ばしで「女性向けポルノが男性向け作品と同等のレベルに多様化する」を目指して駆け上がった結果、転がり落ちてしまったように見える。

 商売だから売れなければ仕方ないのだが、V&Rが女性向けAV事業から手を引いてしまったのは私からすれば残念だ。当時の作風のままでいいかどうかはおいておくとして、女性向けAVのバリエーションを広げる画期的なメーカーが、この先も登場し続けてくれることを願っている。

Text/服部恵典

次回は <人のオナニーを笑うな――「シコる」「抜く」をめぐる女の語彙と男の多様性>です。
男性のオナニーは「シコる」「抜く」などと言いますが、なぜか女性のオナニーを表す動詞は存在しない。女性のオナニーを語るための言葉が発明されるとき日本は激変すると予言する服部恵典さんですが、いや、男性のオナニーこそ実は謎に包まれているのではないかと気付きます。自分のやり方が少数派だと気付いたきっかけとは……?