娘は特別な存在では?

山田ルイ53世の娘さんが紙粘土で作ったメロンパンナちゃんの画像

 二、三歳の時分、娘の一番のお気に入りは、粘土遊びだった。

僕も、随分と付き合わされたものである。

ある日。

「パパ―!ももちゃんの“おかお”つくりたいー!!」

粘土で自分の顔を作りたいらしい。

粘土遊びの教本に載っている、“女の子の顔”なる作品の例。

それに刺激され、作ってみたくなったのだろう。

“顔”と言っても、ブローチのような平面の作品。

なんとかなりそうである。

まず、白と赤の粘土を混ぜ合わせ、肌色を作る。

それを丸く平たく延ばし、顔の土台とする。

後は、ピザと同じ要領。

黒の粘土で拵えた小さな目をトッピング。

鼻や耳は先程の肌色の粘土で間に合うはずだ。

髪の毛は…などと、即座に頭の中で段取りをし、

「じゃあ、ももちゃん!一緒に作ろう…パパのまねしてねー!!」

娘を促し、早速、“顔”の作成にとりかかる。

しばらくの間、お互いの作業に集中していたが、

「うーん…もう!」

隣で、娘が愚図り始めた。

「どうしたの?」

と尋ねると、

「“おくち”どうやってすればいいかわからないーーー!」

“口”の作り方、つまり、粘土で口をどう表現するのかが分からないということか。

そう解釈した僕は、既に仕上がっていた自分の肌色の顔の土台、ピザ生地の下半分の辺りに、ヘラで線を描いてみせ、

「はい!お口!!」

と、娘に渡してやった。

しかし、

「ちがうちがうー!!」

即座に否定される。

一体、何が違うのか…その時である。

何か不気味なものが僕の視界に入った。

娘の傍らに、無造作に転がっている赤い物体。

粘土である。

長径八㌢程の楕円形、小判状に成形されたそれは、しかし、平たくはない。

中央部分に、ふっくらと厚みを持たせてある。

娘はその赤い粘土の塊を手に取り、

「おくちどうやってするのーー!?」

と僕に差し出してくる。

「ももちゃん…それ何?」

怖々と尋ねた僕に、娘は満面の笑みで答えた。

「べろーーーー!!」

そう…それは、人間の舌だった。

しかもどうやら実寸大の、大人の舌である。

恐らく、参考にしたのは僕か妻のそれ。

いずれにせよ、粘土で顔を作る際、普通の子どもが舌から作り始めるだろうか。

このまま成長すれば、我が娘は、1/1スケールの粘土人間を完成させるに違いない。

なんと猟奇的…そして、独創的。

僕は彼女の発想、その感性に、“舌”を巻いた。

「俺の娘は、特別な子どもかもしれない…」

気が付けば、僕は幼児の絵画教室や陶芸教室がないか、スマホで検索し始めていた。

その後すぐに、娘が粘土遊びに興味を示さなくなったので、思い止まれたが。

そうでなければ、通わせていたに違いないのだ。

子どもを前にすると、皆、“親バカ”になるのである。

※2016年9月17日に「TOFUFU」で掲載しました。

Text/山田ルイ53世