子供が真似する「チャイルドプレイ」

自分の順番を待つ間中、"ピーン!"と立てた人差し指を口の中に突っ込み、前歯→奥歯→前歯→反対側の奥歯……と延々と歯磨きをしている。
しかも、その勢いが猛烈で、
「いや、ウンコでも食ったんかい!」
とツッコみたくなるほど。
更に、"指歯磨き"を終えるや否や、両手で目の前のプールの水をすくい上げ、
「ズ、ズズゥゥゥ―――!」
限界まで口に含むと、
「ピュー―――!!!」
ケルヒャー顔負けの高圧放水を開始。
それをまともに顔面に浴びキャッキャと逃げ惑う子、自分も口に水を含み報復に出る子と、ちょっとしたパニックが出現した。
当の本人は、水を全て吐き出し終わると、再び指を"ピーン"……また歯磨き。
結局、このルーティンは、暫くの間繰り返される。

見るに見かねたコーチが、女児に向かって何か言っている。
勿論、分厚いガラスに阻まれ一切聴こえぬが、
「○○ちゃん!汚いからやめなさい!」
と注意するコーチに、
「アイムチャァァァァァァキィィィィィー―!」
と叫ぶ女の子……そんなやり取りを妄想し、僕は思わず吹き出しそうになった。
それはどうやら、周りの父兄も同様で、
(クククク……)
みるみる充満していく"必死で我慢する気配"で、バルコニーのガラスに亀裂が入りそうである。
「アハハ……うちの子もちょっと前まで"あれ"やってたー!」
遂に飛び出したそんな声に、
「もうー、恥ずかしいなー……」
気まずそうにしている女性が、"チャキママ"であろう。

練習を終え、着替えを済ませた娘と、ロビーで落ち合う。
その傍らには、件の女児が。
訊けば、他の習い事でもご一緒する、顔見知りだそうな。
「ももちゃん、バイバーイ!」
「○○ちゃんまたねー!!」
挨拶を交わす様子には、もはや"チャキ子"の面影は微塵も無い。
僕は少しガッカリした。

帰宅後、娘と一緒に風呂に入る。
僕が頭を洗っていると、
「クスクスクス……」
小さな笑い声がし、次の瞬間、頬に"生温い圧"を感じた。
そっと目を開け、浴槽の方を見る。
そこには、口一杯に含んだ風呂の湯を、父の顔めがけて放出する娘の姿があった。
「やめなさい!」
一応叱るが、別にいい。
子供はすぐに真似をし、なんでも楽しい遊び……"チャイルドプレイ"に変えてしまうものである。

Text/山田ルイ53世

※2018年5月12日に「TOFUFU」で掲載しました

次回は <「積極性をもってほしい」と悩む父に、娘が見せた成長>です。
家族旅行で遊園地に訪れた山田ルイ53世一家。山田ルイ53世は引っ込み思案な娘もーちゃんを心配して、新しいアトラクションに誘ったのですが…。娘思いの父に降りかかった思わぬ悲劇、そして娘の成長とは!?