スピリチュアル事件勃発

アルテイシアさんの猫の画像 子猫時代のカメハメ

最期の日、夫と二人でお別れをした。先にこの世を去ることはわかっていたし、介護しながら覚悟もできていたけど、温かかった体が冷たく硬くなっていくことが耐えられなかった。

その時に「1人では受け止めきれなかった、私はこの日のために結婚したのかも」と思った。

その2日後、夫が「俺は科学万能主義だが、メイちゃんが生まれ変わってまたうちに来てくれる気がする」「なんとなく、そのうち猫を拾うような予感がする」と話していて、その夜、私は小さな黒猫を拾う夢を見た。

翌日、私は2週間ぶりに外出した。最寄り駅のロータリーを歩いていると、視界の端にススワタリのようなものが映った。じっと目を凝らすと、歩道の隅に小さな黒猫がうずくまっている。

「オイオイ…喪失の悲しみのあまりイカれたのか?」と私は思った。「お…お師さん…」と幻覚を見るサウザー状態になったのかと。

だが見れば見るほど子猫は実在しているし、冷静になった私は「こんな場所にいると交通事故に遭うし、なにより小さすぎて生きていけない」と判断して、捕獲することに。

しかし子猫はシャーシャー威嚇しながら逃げまくる。猫の動きは素早く、私は人類の中でも動きが鈍い。ようやく捕まえても、南斗水鳥拳のように腕や顔を引っ掻かれて逃げられる。

結局、着ていたパーカを脱いで広げて、ゴールキーパーのような気合いで、どうにか捕獲に成功した。

その日はTシャツ一枚で出かけるつもりだったが、念のためにパーカを着てきてよかった。じゃないとTシャツを脱いでブラジャー姿で猫を捕まえる女として、私が逮捕されたかもしれない。

パーカにくるんだ子猫をエコバッグに入れて、一目散で家に帰った。そこそこ血まみれの妻に仰天する夫に向かって

妻「…猫を拾った」
夫「はっ?」
妻「しかも黒猫」

夫は目を見開いて「我々は超能力夫婦になってしまったのか…」と呟いた。

私も「なんやねん、このスピリチュアルな展開は」とドン引きしていた。「あっちの世界に行っちゃったのか」と思われそうなので、この話は周りにもあまりしていない。

だがこれは我々がシックスセンスやシックスナインに目覚めたわけではなく、カレー沢先生仰るところの唯一神、おキャット様の導きなのだろう。

プリンス・カメハメと命名した子猫を拾ったことにより、私と夫は救われた。

介護から育児にシフトして、子猫にミルクを与えてトイレの世話をする日々の中で、喪失の悲しみがまぎれた。ラオウのように「傷は癒えた!」とまではいかないが、元気いっぱいの子猫と過ごしていると、少しずつ元気が出てきた。

ちなみに今、私はこの原稿を慟哭しながら書いている。その私のヒザの上には5歳になったプリンス・カメハメが丸まっている。

メイコさんは二十代の私にとって、唯一の家族だった。普段は気ままでマイペースだけど、私が落ち込んでると心配そうに見つめてきて、静かに寄り添ってくれた。

今メイコさんを思い出すと「ありがとう」よりも「ごめんね」という言葉が出てくる。言い尽くせないほど感謝しているが、それ以上に後悔の方が大きい。

あの頃の私は余裕がなくて、情緒不安定で、自分のことでいっぱいいっぱいだった。ボケナスな飼い主でごめんね…と土下座したい気持ちでいっぱいだが、そんな私の唯一の手柄といえば、猫を愛する夫と結婚したことだろう。

25歳の時、引っ越しをしようと思った。「今住んでる場所は通勤に時間がかかるし、朝のラッシュも辛いし、終電逃すとタクシー代バカ高いし、会社の近くに住む方が楽だよな」と考えて、物件探しをはじめた。

ほどなくして好条件の部屋が見つかり、あとは不動産屋に返事をするだけ…というタイミングで「私はよくても、猫はどうなんだ…?」と悩んだ。

ここはメイコさんにとって子猫時代から住み慣れた部屋だし、都会のど真ん中よりも静かな環境だ。そこで「この家の方がいいかな?」とメイコさんに聞くと「ニャン」と答えたので、私は引っ越すのをやめた。

あの時、引っ越していれば、近所のバーで夫に出会うこともなかっただろう。やはり自分の選択が未来を作るのだなあ…と思う反面、「それもこれも全て、おキャット様の導きでは?」という気もする。

我々の住むこの世界はおキャット様の掌の上なのかもしれない。

以前、義母が猫たちに「ばあばの言うことを聞きなさい!」と言うのを聞いて、夫は「猫に人間の言葉を理解する能力があったら、人類は支配されるぞ」と話していた。

たしかにあれだけ優れた身体能力に言語を理解する能力が加わったら、人類はかなわないだろう。そして『猫の惑星』のようにおキャット様が支配する世界なら、喜んで奴隷になる!という者も多いだろう。

要するに、猫は尊いという話である。

アルテイシアさんの猫の画像 成長したカメハメ
アルテイシアさんの猫の画像 お腹のうえでくつろぐラーメンマン

Text/アルテイシア
※2017年5月2日に「TOFUFU」で掲載しました

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