かつての呼び名

離婚しそうな私が離婚してない理由/59番目のマリアージュ 男性の育児休業―社員のニーズ、会社のメリット (中公新書)

 当時、人生のどん底にいた私は結婚に逃げたかった。そのために彼を利用しようとしたのだから、偉そうなことは言えない。

 と言いつつクソミソに書くが、やはり彼はクソつまらない男だった。それでも溺れる者は糞をもつかむで「これオソマじゃなく味噌じゃね?」と自分を騙して付き合っていた。

 今の私なら「嫁が女じゃなくなって」と言われた瞬間「この味は!…ウンコの『味』だぜ…」と別れを選んだだろう。

 20代の私は意識が低かった。働いていた広告会社も「コンプライアンス?何それおいしいの?」みたいな会社だった。

 たとえば、私は呼び名が「まんこ」だった。

 全員に呼ばれていたわけじゃないが、下ネタ好きの男性上司に「よう、まんこ!」と呼ばれて「ちんぽ課長、お疲れ様です」と答えていた。双方が嫌がってないのでハラスメントではないが、意識が低すぎる。

 たとえ本人が「萬田かすみ、あだ名はマンカスです!」と名乗ったとしても、職場でそんな呼び方をするのは不適切だろう。

 コンプライアンスの存在しない職場で、3人の子を持つ男性上司が「嫁にセックスを迫ったら『そんな余裕ない!風俗に行って!』とキレて財布を投げられた」と笑い話として話すのを聞いて、複雑な気分になった。20代の意識の低かった私でも、そのネタを面白いとは思えなかった。

 42歳の私だったら「吐き気をもよおす『邪悪』とはッ!」とチンポをバラバラにしただろう。

 現在も在職中の後輩女子は「会社もかなり変わりましたよ。今、職場でそんな話を大っぴらにする人はいないです」と言っていた。時代も変わったし、私も変わった。特に物書きになったことで、言葉にはなるべく気をつけるようになった。

 もしあのままの感覚で生きていたら、今ごろ「老害」という呼び名になっていただろう。

 先日もJJ(熟女)会をした時、2人の子ども(4歳児と乳児)のいる女友達が参加したのだが

「今日は子どもはどうしてるの?」

「2人とも夫がみてるよ」

「こういう時『夫偉いね』とつい言いそうになるけど、男女逆なら言わないんだから、偉いって言っちゃダメだよね」

「そうそう」

 という会話になった。

 また、夫が子育てすることに対して「手伝う」「協力」「サポート」といった言葉も使わないようにしている。

 というと「そんな細かいこと気にしなくても」「面倒くさい人間だな」と言われがちだが、そういう意見が「子育ては女の仕事」「ワンオペ育児が当然」という社会を作るんじゃないか。

 そして、男性も育児や介護のために仕事を休んだりしづらくなるんじゃないか。