バッドニュースをお裾分けすると二人で暗い気分「夫婦と暗いニュース」/カレー沢薫

今回のテーマは「夫婦と暗いニュース」である。

私個人に関しては、連載が打ち切りになったり単行本が売れなかったり、他人の単行本が売れたりと暗いニュースには事欠かないのだが、夫婦共通の暗いニュースというのはあまりなかったように思う。

もちろん、バッドニュースが起こった時、バッドをタッパーに詰めてお裾分けすれば二人で暗い気分になれるのだろうが、うちにはあまりお裾分けという文化がない。

おそらく夫にも一通り仕事を教えた新人がバッくれたとか横領がバレたとか、バッドな1日はあったと思われる、どれだけベリーグッドな1日でも、私が腐った弁当を持たせたせいでグッドが消失する日もしばしばだ。

その場合は原因が私なので「弁当腐ってたぞ」というバッド情報が共有されるのだが、逆に私に関係ないバッドは夫もあまり共有してこないのである。

夫婦は苦楽を共にする仲なので、相手に全く関係ない暗いニュースでも共有し負担を減らすことも必要である。

よく言えば「悲しいことは半分」だが悪く言えば「心中」だ。

「FXで有り金全部溶かした」などのバッドニュースは共有してもらわないと、さらにバッドな事態になるが、中には「そのぐらい自分で消化してくれよ」という程度のものもある。

パートナーが毎日腐りかけの饅頭を渡してきたら、いつか二人とも食あたりで死ぬ。

その点、夫はあまり嫌な感情を共有してこない方である。

これは一見楽なように感じるかもしれないが、嫌な感情を共有してこないということは、喜びもあまり共有する気がないのだ。

私はバッドニュースには事欠かないがグッドニュースが皆無というわけではない。

特に最近は、漫画で賞をもらったり、最近では作品を全国放送のテレビで紹介してもらったりと、仕事関係では割と大きなグッドがあった。

普段は夫に仕事の話は全くしないのだが、これらはなかなかない慶事なので、流石に黙っていることはできず、夫に言った。

すると夫は、一応へえすごいじゃないか、と言った。

しかし「番組名」などは一切聞いてこなかった。

これが全てである。

現在はテレビ番組でも、後追いでネットで見れたりする、興味が1ミリでもあれば番組名を聞き、ググるぐらいはするだろう。

もしかしたらジジイの名にかけて、ノーヒントで番組名を推理するというエクストリーム視聴を決めるつもりなのか、と思ったが、そこでその話は終わり、二度と話題にのぼることはなかった。

あまりにも夫の反応が薄いため、こちらも「そこまで騒ぐことでもなかったのかもしれない」と、さっきまでジーパンすら突き破らんばかりに怒張していた自意識が一瞬で素麺みたいになってしまった。

このように感情を共有する気がない人間と喜びを分かち合おうとすると逆に「喜びが半減」してしまうので注意が必要である。