「諦めたから公開終了ですよ」の前に夫を誘って行った映画/カレー沢薫

今回のテーマは「夫婦で今一番行きたいところ」だ。

この手の話は「まず外に出たくない」で終わってしまうのだが、そもそも私は「行ってみたい場所ほど一人で行きたい」と思うタイプだ。

ひとり行動の最大の利点は「楽」につきる。

「ブルーシートに包まれた謎の物体を山中に埋めに行く」など労働力を必要とする行動なら頭数がいたほうが楽だ。

だが、メンタル的にはひとりなんて寂しくて元カレにLINEしちゃうし既読スルーで手首を切るタイプ以外は単独行動の方が楽と感じるだろう。
何ごとも一人の方が周りに気を使わなくて済むから楽なのである。

などと、あたかも自分が周囲に気を使って疲弊してきたかのような口ぶりだが、もちろんそんな高度なことが出来たためしはない。
むしろ出来なかった結果ひとりになっているともいえる。

私にとってひとり行動は楽でもあるが、最大のメリットは「周囲に迷惑をかけない」という点である。

協調性がない人間も集団行動の時はそれなりに周りに合わせようとはしており、目に映るボタン状の物を片っ端から押そうとしたり、目的地寸前で急に石や枝を拾い出すなどのフリーダム行為は慎もうと努力はしているのだ。

つまり、普通の人なら無意識にできる「足並みを揃える」という行為を頑張ってしているため、HPの減りが異常に早いのである。

常人でも疲れによって無口になったり不機嫌になることはあるだろう。
それが「旅行最終日帰宅途中の車内」であれば、全員そんな感じで静かになっているため目立ちはしない。

しかし協調性がない人間は集団の中にいるだけでマッハで気力体力を減らしていくため、下手をすれば、行きの車内でその状態になってしまうことがある。

いきなり一人だけファイナルデーになっている奴がいたら当然周囲は何事かとなってしまうだろう。
しかし「何怒ってんの?」と聞いたところで明確な理由はないため「怒ってないし」という明らかに怒気を含んだ返答が返ってくるだけである。

この突然現れた巨大な赤ちゃんの機嫌取りに周囲もハイスピードで疲弊していき、全員を初日で最終日にしてしまいがちなのだ。

つまり、ひとりの方が周りを疲れさせずに済むし、自分も元気なまま目的を楽しめるので、自分が行きたいと思うところほどひとりで行きたいのである。

しかし、行きたいところには一人で行くが「行ってはみたいが、そこまで強い意志をもって行きたいわけではない場所」というものある。

そういう場所へは、夫を誘っていく場合もある。

その筆頭が「映画」である。