「諦めたから公開終了ですよ」

「見てみたい」と思う映画は多数ある、しかし我が里は県の面積は東京の3倍近くあるのに、最新作を放映するシネコンは約4つという、部員が5人しかいないサッカー部に広大なグラウンドだけ与えられボールはない、みたいな状態だ。

私の家からどの映画館も微妙に遠く、車でも往復1時間はかかる。

その労力と映画が始まるまでの待ち時間、永遠に本編が始まらない予感を感じさせる予告、俺もキングダムの予告で大沢たかおを見るのか、と思ったら沈黙の艦隊で大沢たかおを見る謎の損した感、などを考えはじめると行く踏ん切りがつかず、公開が終わっているというパターンが大半だ。

そんなわけでここ数年ほど映画館で映画を見ていなかったのだが、先日ザファこと『THE FIRST SLAM DUNK』を見に行った。
見たいと思いながら、いつものパターンにより「諦めたから公開終了ですよ」という安西先生の声が聞こえかけていたのだが、何せザファは非常に評判がいい。

評判がいいだけではなく、同じ人間が何回も見に行っているのだ。
あまりにも狂ったようにリピートしているため、他人がザファを見続ける無限ループにハマったのかと思ったが、どうやら本人たちが人力ループをしているだけのようだ。

このまま見ずに終わったら後悔しそうな気がしていたので、踏ん切りをつけるため夫を誘って見に行った。

今回はたまたま夫もザファに興味があったので一緒に見たが、映画館までたどり着くまでが夫同行の意味なので「映画館まで一緒に行って別々の映画を見て帰る」ということもたまにある。

そういえば、先日、夫に誘われて花火を見に行った。

私が花火などの「美しきもの」に興味がなく、花火開始まで1秒たりとも待ちたくないので、花火開始時刻ちょうどに会場に到着、終わった瞬間に帰る花火RTAプレイヤーなのは言うまでもないが、夫自身もそこまで花火に興味があるようには見えないのである。

その割には毎年記録タイム更新を狙う私を連れて花火に行くのだ。

もしかしたら、夫も花火を見ながら生ビールを飲みたいが、一人で行くほどではないので、踏ん切りのために私を誘っているのかもしれない。

私と花火が見たいという大穴もあるが、その前に「運転手がいないとビールが飲めない」という大本命がいたことに今気づいた。

Text/カレー沢薫