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  • 2017.03.02

パク・チャヌク監督が帰ってきた!愛の罪深さをあぶり出す『お嬢さん』

1939年、日本統治下の朝鮮半島の豪邸で囚われたように暮らすお嬢様・秀子。それに仕えるメイド・スッキと彼女と共謀する詐欺師の3人が、それぞれの欲望に赴くまま騙し合う——。韓国の鬼才パク・チャヌクが放つ官能サスペンス。

たけうちんぐ 映画 お嬢さん パク・チャヌク 韓国映画 キム・ミニ ハ・ジョンウ チョ・ジヌン ムン・ソリ キム・テリ
ⓒ 2016 CJ E&M CORPORATION, MOHO FILM, YONG FILM ALL RIGHTS RESERVED

 恋の駆け引きとかそんなレベルじゃない。誰かを愛する時、人はかくも他人を欺き、その愛を得るために自らを偽るものか。
この作品には3回騙される。それも裏の裏、またその裏をかいてくる。メイド、お嬢様、詐欺師。三人が散りばめた“嘘”のパズルが火を上げながら摩擦し合い、それらが整って真実に導く時、あまりの衝撃の結末に息を呑む。

 成人指定にも関わらず韓国では大ヒットとなり、カンヌ国際映画祭でも絶賛の嵐が吹き荒れた。
『イノセント・ガーデン』でハリウッド進出を果たした韓国の鬼才パク・チャヌク。彼が7年ぶりに韓国で手がけた最新作に、キム・ミニ、ハ・ジョンウ、チョ・ジヌン、ムン・ソリなど実力派はもちろんのこと、オーディションで1500分の1の競争率を勝ち抜いて主演に選ばれたキム・テリが華を添えている。

“スキャンダル”が三部構成によって多角度で描かれる

たけうちんぐ 映画 お嬢さん パク・チャヌク 韓国映画 キム・ミニ ハ・ジョンウ チョ・ジヌン ムン・ソリ キム・テリ
ⓒ 2016 CJ E&M CORPORATION, MOHO FILM, YONG FILM ALL RIGHTS RESERVED

 本作は三部構成からなり、第一部はメイド・スッキの視点、第二部はスッキが仕うお嬢様・秀子の視点で描かれ、詐欺師・藤原伯爵の作戦とともに数々の謎を残して、第三部はすべての真相が明るみになる。
各キャラクターの不可解な行動もすべて伏線として回収され、官能シーンのみならず作品自体の構成が見惚れるほど美しい。

 舞台は1939年、日本統治下にあった朝鮮半島で膨大な蔵書に囲まれて暮らす大富豪の屋敷。そこでスッキと藤原伯爵が財産を奪おうとする。和式と洋式がミックスした部屋と、日本語と韓国語が交互に繰り出される会話。あらゆる文化が融合した様はカルト映画的な深みがあり、その上で写真のように切り取られる映像の構図がスタイリッシュに作品を彩る。
そして、韓国人俳優によるたどたどしい日本語のセリフを凌ぐ、体を張った芝居が大きな見所だ。特にスッキが秀子をお風呂に入れるシーン。秀子の指をくわえたスッキと、それを見つめる秀子の緩やかな目の動きがエロティックで、官能的な肉体の絡みもすべて二人の心理描写として消化されている。

一つの愛が性別・作戦・支配関係を乗り越える

たけうちんぐ 映画 お嬢さん パク・チャヌク 韓国映画 キム・ミニ ハ・ジョンウ チョ・ジヌン ムン・ソリ キム・テリ
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 ピュアな瞳からは想像できない野心を燃やすスッキ、そんな彼女と共謀する藤原伯爵、亡き母の切ない記憶を胸に生きる秀子お嬢様。

 全員が嘘をついている。冒頭からその嘘を見破れる人は、探偵か推理小説家くらいだろう。

 しかし、その嘘が唯一敵わない感情がある。それは愛だ。一つの感情が性別、作戦、支配関係を乗り越えていく様がスリリングで、血と喘ぎ声を伴いながら襲いかかってくる。
セックスだけが女の正体を暴く。スッキと秀子の肌の触れ合いに真実が隠されている。秘め事を盗み見してしまったように、覗き穴から覗き込むようなスキャンダラスな性描写が心拍数を上げる。

 家の中で立入禁止の図書館の仕掛け、藤原伯爵の作戦の裏の裏、スッキと秀子の関係。誰もが欲望に実直で、それを得るために嘘を吐く姿が人間くさい。それらが過激なシーンでも一歩引いて人物を捉えるパク・チャヌクらしい視点により、どこか冷めたようで滑稽に思えてくる。
この監督でしか絶対に表せない、『オールド・ボーイ』など復讐三部作の頃のパク・チャヌクの鋭さが帰ってきた。145分間、感情が渦巻いて一切油断できないでいる。

 スッキと藤原伯爵の作戦と、スッキと秀子との愛の行方はいかに。三人の騙し合いに目が離せず、改めて愛の罪深さを思い知る。 そこには嘘が付き物でも、嘘が突き通せない感情が確かにあることを『お嬢さん』が教えてくれる。

ストーリー

 1939年、日本統治下の朝鮮半島。膨大な蔵書に囲まれた豪邸で支配的な叔父と暮らす令嬢・秀子(キム・ミニ)。ある日、彼女のもとへ新しいメイド・スッキ(キム・テリ)がやって来る。しかしその正体は、孤児として詐欺グループに育てられ、秀子の財産を狙う詐欺師(ハ・ジョンウ)の手先だった。
 スッキは秀子を誘惑し、彼女を精神病院に入れて財産を手にするという作戦に乗る。だが、その計画はスッキが美しい秀子に惹かれ、秀子もまた献身的なスッキに心を許していくことで、思わぬ方向に進んでいく――。

           

 3月3日(金)、TOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー

監督:パク・チャヌク
キャスト:キム・タエリ、キム・ミニ、ハ・ジョンウ、チョ・ジヌン
配給:ファントム・フィルム
原題:THE HANDMAIDEN/2016年/韓国映画/145分
URL:『お嬢さん』

次回は<ヒロインはいつも爆睡中?夢と現実をまたぐ父と娘の愛『ひるね姫~知らないワタシの物語~』>です。
2020年の岡山県倉敷市。父と二人暮らしの女子高生・ココネは眠るたびになぜか同じ夢を見る。ある日突然、父が警察に東京へ連行されてしまい、夢と現実の中で様々な謎が浮かび上がる——。『攻殻機動隊S.A.C.』『東のエデン』の神山健治監督が手がけるオリジナル長編アニメ。

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ライタープロフィール

たけうちんぐ
ライター/映像作家
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