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  • 2017.02.21

ああ、この世に映画があってよかった『ラ・ラ・ランド』夢追い人達のミュージカル

売れないジャズピアニストのセバスチャンと女優志望のミアはひょんなことで出会い、やがて恋に落ちる。だが、互いに夢を追いかけることで次第にすれ違いが生まれていく——『セッション』のデイミアン・チャゼル監督最新作。

たけうちんぐ 映画 ラ・ラ・ランド ライアン・ゴズリング エマ・ストーン デイミアン・チャゼル
© 2016 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.

 心拍数が上がる。とめどない高揚感に打ちのめされる。一曲終わるごとに拍手をしたくなる。

 夢を追う者・恋をする者なら誰もが、それらの条件を満たすセバスチャンとミアの歌声に耳を傾けるに違いない。ああ、この世に映画があってよかった。そんな感覚を抱き、歌とダンスに酔いしれ、心地よすぎて天に召されそうになる。

 このロマンスは今、目の前にある景色をすべて一変させる。そして、ハリウッド映画の歴史すら変えるかも知れない。

 ジャズドラマーと鬼教師の壮絶な掛け合いを描いた『セッション』で世界中を熱狂させた、32歳の若き天才デイミアン・チャゼル監督。その新作はなんとミュージカル。新境地とはいえ、彼の音楽映画ならではの得意技が盛り込まれている。

『きみに読む物語』『ドライヴ』のライアン・ゴズリング、『アメイジング・スパイダーマン』『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』のエマ・ストーンという超売れっ子二人が、それぞれ全く売れていないジャズピアニストと女優志望を演じ、歌とダンスでスクリーンを彩る。

 あのトム・ハンクスでさえ、「この傑作を前に僕らはみんな絶望的な気持ちさ」と嫉妬するほど。アカデミー賞大本命と呼ばれる、確実に歴史に名を残すであろう名作の古参ファンになるなら今のうち!

役者の力を、映像の力を信じている

たけうちんぐ 映画 ラ・ラ・ランド ライアン・ゴズリング エマ・ストーン デイミアン・チャゼル
© 2016 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.

 本編が始まってわずか5分間で大傑作だと分かる作品も珍しい。
大渋滞のロサンゼルスの車道で始まる歌とダンスからタイトルが出るまで、それだけで映画何本分か充実感が得られる。日本人だからミュージカルに抵抗ある? そんな方でもご心配なく。その不安は冒頭からあっけなく消し去られる。

 オープニングの『Another Day of Sun』。この映像だけでもYouTubeにアップされたら、世界中で一気にバズること間違いなし。シュールとスペクタクルを兼ね揃えた、驚異のミュージカル映像に仕上がっている。その楽曲は夢を追うセバスチャンとミアの行く末を暗示し、「打ちひしがれても 立ち上がり 前向く」――そんな歌詞がいきなりクライマックスかよ、と言わんばかりの高揚感を引き出す。

 ロサンゼルスの夜景を前に、プラネタリウムの星座を前に、もどかしさ、いじらしさ。ダンスの数々は恋がもたらす感情全てを余すことなく表現する。最初は互いにクソ野郎と思っていた。そんな古典的ラブコメのデフォを踏襲しながら、二人が気が付けば抱き合ってめくるめくミュージカルの新境地へ誘う。

 その方法の一つに、唯一無二のセンスが光る撮影・編集がある。ミュージカルシーンでは極力カットを割らずに長回しで、ライブシーンでは『セッション』の編集を継承するように大量に割る。前者では役者の力を、後者では映像の力を信じている。そんな信頼関係が築かれつつ、物語の中で流れる時間を尊重し、映像でしか表せないリズムを切り刻んでいる。

夢を売る仕事への賛歌、恋に生きる人々への応援歌

たけうちんぐ 映画 ラ・ラ・ランド ライアン・ゴズリング エマ・ストーン デイミアン・チャゼル
© 2016 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.

 セバスチャンとミアの輝かしい恋にも、やがて暗雲がたちこめる。夢と恋愛が天秤にかけられて、成功に向かうために犠牲にするものが増えていく。大事なのは将来の夢か、愛する人との夢か。答えが見つからない問いに、二人は葛藤していく。
夢追い人の街・ロサンゼルス。そこで敗れた夢も叶わぬ恋も、スクリーンには映らない。結果だけが人々を熱狂させ、成功した者だけが光を浴びる。

 本編が終わってから、エンドロールですら劇的に思えてくる。ここに名前を連ねる人たちも二人と同じように夢を追い、それを叶えた人たち。それぞれにセバスチャンやミアのような存在がいるだろう。彼らと同じように悲喜交々を乗り越えたのかも知れない。決してメインスタッフに載らない名前でも、そこに辿り着くまでは茨の道だ。ミアのように挫折を覚えた人も少なくはないだろう。

 この作品は夢を売る仕事への賛歌であり、恋に生きる人々への応援歌でもある。スクリーンに姿を残せなかった人たちの存在を想像するだけで、映画はより一層劇的なものになる。
もちろん映画に限らず将来の思い描く姿に向かっている人ならば、誰もがセブとミアの想いに触れることで、ふと忘れたくても忘れられない人を思い浮かべるだろう。

 愛した分だけ、心は傷つくかも知れない。だったらいっそのこと、誰も愛したくない。そんなネガティブな感情にさえカラフルな光を照らすような、最悪な思い出すらも肯定してくれるような。
恋愛における最高と最低、その全てがここに映される。永遠なんて存在しない。それでも永遠を一度でも信じた者が、その瞬間を留めておくことができる。

 セバスチャンとミアが踊り明かした姿はずっと残るだろう。それが、映画ならではの力だ。

ストーリー

 オーディションに落ち続けて、気持ちが沈んでいた女優志望のミア(エマ・ストーン)。ふとピアノの音色に誘われて入った小さなジャズバーで、売れないジャズピアニストのセバスチャン(ライアン・ゴズリング)と出会う。

 最初はいがみ合っていた二人だが、互いの夢を知り、応援し合うことで恋に落ちていく。セバスチャンの夢は、自分の店を持って思う存分ジャズを演奏すること。ミアの夢は、女優になること。その夢を育んでいく過程で、セバスチャンが生活のために加入したバンドがブレイクし、二人の関係が次第に崩れていく――。

2月24日(金)、TOHOシネマズ みゆき座ほか全国ロードショー

監督・脚本:デイミアン・チャゼル
キャスト:ライアン・ゴズリング、エマ・ストーン
配給:ギャガ=ポニーキャニオン
原題:LA LA LAND/2016年/アメリカ映画/128分
URL:『ラ・ラ・ランド』公式サイト

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次回は <パク・チャヌク監督が帰ってきた!愛の罪深さをあぶり出す『お嬢さん』>です。
1939年、日本統治下の朝鮮半島の豪邸で囚われたように暮らすお嬢様・秀子。それに仕えるメイド・スッキと彼女と共謀する詐欺師の3人が、それぞれの欲望に赴くまま騙し合う——。韓国の鬼才パク・チャヌクが放つ官能サスペンス。

童貞の疑問を解決する本

ライタープロフィール

たけうちんぐ
ライター/映像作家

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