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  • 2017.02.16

妻の死後、泣けない夫は物を壊し続けた『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』

妻が突然亡くなった。だが、夫・デイヴィスは少しも悲しくなかった。心の居場所を探すべく、トイレ、パソコン、家具など身の回りの物を壊し始める——『ダラス・バイヤーズクラブ』のジャン=マルク・ヴァレ監督最新作。

たけうちんぐ 映画 雨の日は会えない、晴れた日は君を想う ジャン=マルク・ヴァレ ジェイク・ギレンホール ナオミ・ワッツ クリス・クーパー
© 2015 Twentieth Century Fox Film Corporation, Demolition Movie, LLC and TSG Entertainment Finance LLC. All Rights Reserved.

 タイトルからして内向的なメロドラマを想像した。その予想はあっけなく裏切られる。ここで鳴るのはお涙頂戴の壮大なストリングスではなく、まさかの破壊音。
“妻を亡くした夫”の物語がここまでやかましく、騒々しいとは。決して一面的に収まらず、残された者がいかに愛情深く、残忍で、繊細で、無神経であるのか。ごく一般的なヒューマンドラマの先入観を次々と破壊していく。

 ジャン=マルク・ヴァレ監督は今まで『ダラス・バイヤーズクラブ』『私に会うまでの1600キロ』など、心が行方不明になる主人公を描いてきた。
今回はジェイク・ギレンホールを主演に迎え、ナオミ・ワッツ、クリス・クーパーの実力派揃いで脇を固め、妻を亡くした夫の行方を予想外の展開で叩きつけてくる。

 

物は解体できても、心は解体できない

たけうちんぐ 映画 雨の日は会えない、晴れた日は君を想う ジャン=マルク・ヴァレ ジェイク・ギレンホール ナオミ・ワッツ クリス・クーパー
© 2015 Twentieth Century Fox Film Corporation, Demolition Movie, LLC and TSG Entertainment Finance LLC. All Rights Reserved.

 ハンマーで机を殴る。ノコギリで切り刻む。窓ガラスを割る。デイヴィスは義父の「心の修理も車の修理も同じことだ。まずは隅々まで点検して、組み立て直すんだ」という言葉が引き金となり、気遣う義父の思惑に反してまさかの“破壊”へ。

 こう聞くとハードコアなヒューマンドラマの印象を受ける。だが、その破壊音はすべてデイヴィスの虚しさから来ている。
富も地位も手に入れたウォールストリートの銀行員が、妻を亡くしてから様変わりする。いや、これが本来の姿なのだろうか。仕事で空虚な数字と向き合い、味気ない日々。妻の死に涙を一滴も流せないことから、自分の心の行方を探ることになる。

 “幸せ”の象徴なんて叩けば脆くも割れてしまう。人間の体と同じように、とことん傷つけば死に至る。だが、心はいくら傷ついても残酷なまでに在り続ける。それがデイヴィスを苦しめていくのだ。
 
 だったら、いつもと違う行動をしよう。高級品が並べられた家を見ると、彼がいかに形式にこだわり、ごく一般的な結婚生活の価値観を持っていることが分かる。
それを破壊することで模索する行動―たとえば電車でいきなり急ブレーキのレバーを引く姿―は、端から見ると常軌を逸している。精神科で病名を付けられるほどだろう。それでも、心を解体できずにいるデイヴィスを狂人とは思いたくない。

ある人にとっては狂人でも、ある人にとってはナイスガイ

たけうちんぐ 映画 雨の日は会えない、晴れた日は君を想う ジャン=マルク・ヴァレ ジェイク・ギレンホール ナオミ・ワッツ クリス・クーパー
© 2015 Twentieth Century Fox Film Corporation, Demolition Movie, LLC and TSG Entertainment Finance LLC. All Rights Reserved.

 デイヴィスの破壊は人間関係にすら及び、義父母とも距離を生んでしまう。でも、その喪失感は思いがけない人と関係を築くことになる。

 妻が亡くなった夜、病院の自動販売機が故障したことから、苦情係のシングルマザー・カレンと、その息子・クリスに出会う。二人に刺激され、デイヴィスは人生の再出発をするために生きている実感を得ていく。

 クリスと一緒に音楽を聴きながら、ノリノリで物を破壊していく様が微笑ましい。クリスもまた嫌われ者で居場所がなく、デイヴィスと同じ“ゼロ”のスタートなのだ。二人の友情はそれぞれが何かを失ったからこそ結ばれた。
この物語をデイヴィスだけのものにしないために、クリスは物を破壊するように趣味のドラムを叩き、デイヴィスもまたイタズラ好きな少年のように窓を割っていく。その大きな音にどこか爽快感すら覚えてしまう。デイヴィスとクリスの笑顔から、破壊の後には再生が待っている気がしてならない。

 他人の印象のほとんどが、その人の行動一つで決められる。
デイヴィスはある人からすれば狂っていて、クリスからしてみるとクールなナイスガイ。そして、観客からしてみるとこの物語の誰よりも人間臭くて、身近な存在に感じるはず。
一面だけでは分からない。多面的に切り取られることで、デイヴィスの葛藤がより深く感じられる。

 死を美化せず、心の喪失を真正面から捉える誠実な描写が胸を打つ。涙がすべて悲しみを表すなんて大間違いだ。
デイヴィスがただ一つどうしても壊せない物にたどり着いた時、人生にとって本当に大切なものを浮き彫りになる。それは決して涙などでは表せないだろう。

ストーリー

 デイヴィス(ジェイク・ギレンホール)は富も地位も手に入れたウォールストリートのエリート銀行員。何一つ不自由ない暮らしの中、いつもの仕事へ向かう朝に交通事故で突然妻を失う。
ところがデイヴィスはなぜか一滴も涙が流せない。無感覚である自分に気づき、本当に妻を愛していたのか葛藤する。そんな中、義父・フィル(クリス・クーパー)の助言がきっかけになり、身の回りのあらゆる物を破壊していく。会社のトイレ、冷蔵庫、妻のドレッサー、そしてついには家さえも。
そんな日々の中、ひょんなことで知り合った自動販売機の顧客担当責任者でシングルマザーのカレン(ナオミ・ワッツ)と、その息子・クリス(ジューダ・ルイス)と知り合い、互いに癒し合うことで生きている実感を得ていく――。

2月18日(土)より、新宿シネマカリテほか全国ロードショー

監督:ジャン=マルク・ヴァレ
キャスト:ジェイク・ギレンホール、ナオミ・ワッツ、クリス・クーパー
配給:ファントム・フィルム
原題:DEMOLITION/2015年/アメリカ映画/101分
URL:公式サイト『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』



Text/たけうちんぐ

次回は <ああ、この世に映画があってよかった『ラ・ラ・ランド』夢追い人達のミュージカル>です。
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ライタープロフィール

たけうちんぐ
ライター/映像作家
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