感情が人類の未来を脅かす

たけうちんぐ 映画 『エクス・マキナ』 SF ドーナル・グリーソン アレックス・ガーランド Universal Pictures

 終盤の展開は地獄絵図だ。だからといって街が破壊されたり、地球が火の海になるわけではない。限られた登場人物と舞台設定だけでも、この映画のラストの先にはその壮大なスケールの終末的世界観が予想される。人と人同士が争い合い、ロボットが地球を支配する。そんな未来が見えてしまうのだ。

 ここで描かれる人間とAIの最大の違いは、感情のコントロールができるか否か。競争のために感情は必要ない。AIはそれをなくすことで何が無駄で何が有効かを知り、ある意味人間以上に動物的本能に優れている。憐れみも情けもないからだ。

 地球に生き残るためには、人間がゴキブリを殺すのと同じように害虫を駆除する必要がある。AIにとってそれは「人間」なのだろう。まさに環境を破壊し、汚染し続けている人間こそが最大の害虫なのだ。

 本作はSF映画だろうか? いや、この世界はまさに今すぐそこで玄関のドアをノックしている。毎日手にしている携帯がそのドアを開いている。
インターネットによって人々の好奇心がコンピューターに掌握されている今の時代、これこそがすでにSFだ。
電車の中で横一列全員が携帯を片手に一斉にエヴァを歓迎し、美しくて便利なその存在に知らず知らずに食い潰されているのかもしれない。

 AIの恐怖と同時に、恋心の危なさが描かれている。翻弄されることがいかに恐ろしいか、ケイレブの行く末がそのすべてを語っている。
エヴァにとって、これは一つのゲームだ。目的は“デート”。その相手がケイレブならば、それはAIの勝利を意味するだろう。

 本作がもたらす“実験”は人間の本質を探り、弱点を知る。これは感情に突き動かされ、害虫であることの自覚のない人類への警鐘でしかないのでしょう。

ストーリー

 検索エンジンで有名な世界最大のインターネット会社「ブルーブック」でプログラマーとして働くケイレブ(ドーナル・グリーソン)は、普段滅多に姿を現さない会社の社長・ネイサンの山奥の別荘に一週間滞在するチャンスを得る。
人里離れた山荘でケイレブを待ち構えていたのは、美しい女性型ロボット・エヴァ(アリシア・ヴィキャンデル)だった。
彼女に搭載された世界初の実用レベルとなる人工知能の実験に協力することになり、実験を重ねていくうちにケイレブは魅力的なエヴァに次第に惹かれていく。

6月11日(土)より、シネクイント他にて全国ロードショー

監督:アレックス・ガーランド
キャスト:ドーナル・グリーソン、アリシア・ヴィキャンデル、オスカー・アイザック
配給:パルコ
原題:Ex Machina/2015年/イギリス映画/108分
URL:「エクス・マキナ」公式サイト

Text/たけうちんぐ