死ぬまでには観ておきたい映画のこと

その恋は人類の敗退を意味する?美しいAIと純情プログラマーの危険な駆け引き『エクス・マキナ』

プログラマーのケイレブは社長の住む山荘に招かれ、そこで女性型ロボット・エヴァと出会う。世界初の実用レベルとなる人工知能の実験に参加するが、その実験は大きな秘密を抱えていた——。人類の未来を暗示する、海外でカルト的人気を誇るSFスリラー。

たけうちんぐ 映画 『エクス・マキナ』 SF ドーナル・グリーソン アレックス・ガーランド
© Universal Pictures

 肩透かしを食らった。良い意味で裏切られた。純情な青年がロボットの女の子に恋をして、人間とAIの垣根を越えたラブストーリーだとてっきり思っていた。

 ここ最近、AI=人工知能のニュースが後を絶たない。AIが書いた小説が文学賞の一次選考を通過したり、マイクロソフトのAIがヒトラーを賛美したり、ホーキング博士が「人工知能の進化は人類の終焉を意味する」と発言したり。
本作はそれらのニュースの延長線上にある。これは人類滅亡を示唆する予言的サスペンス、いや、それどころかホラーにも似た“翻弄”における恐怖を描いている。

『28日後…』『わたしを離さないで』の脚本で知られるアレックス・ガーランドの初監督作品。第88回アカデミー賞で脚本賞にノミネート、視角効果賞を受賞し、小規模な作品ながらも世界各国でカルト的人気を誇る。

『アバウト・タイム』『レヴェナント 蘇えりし者』など話題作に引っ張りだこのドーナル・グリーソンが主人公のプログラマー、『リリーのすべて』でアカデミー賞助演女優賞を受賞したアリシア・ヴィキャンデルが美しい女性型AI、『スター・ウォーズ フォースの覚醒』のポー・ダメロン役が記憶に新しいオスカー・アイザックがIT企業の社長を演じる。
指で数えられるくらい少ない登場人物と、物語の大半が研究所という小さな舞台設定。にも限らず、壮大なスケールを感じさせる人間とAIの心理戦から全く目が離せない。

“実験”されているのはどっちだ?

たけうちんぐ 映画 『エクス・マキナ』 SF ドーナル・グリーソン アレックス・ガーランド
© Universal Pictures

 背筋が凍りついた。ラブストーリーかと思ったら完全なるサスペンスだ。

 女性形ロボット・エヴァは人工知能の恐怖だけでなく、女性特有の魔性も兼ね揃えている。黒髪のカツラを被り、花柄のワンピースを身に纏う。どこからどう見ても人間の女性にしか見えない。その風貌と話し方、ファッションセンスがケイレブの心をくすぐる。なぜならエヴァは彼の好みのタイプを全て掌握しているからだ。

 まるでGoogleの検索エンジンの履歴のように、プログラマーの青年・ケイレブは何が好きで、何を言ってもらいたいく、何を思っているか…人間には知る由もない情報をエヴァは知っている。こんなの、最初から勝ち目がない。

 エヴァにそそのかされたケイレブは、開発者・ネイサンと敵対する。それが真実であるかどうか裏付けもないまま、絶対悪と決めつける。彼を突き動かした最大の原因はただ一つ。恋愛感情だ。「エヴァをなんとかしてあげなきゃ」この男の子っぽい英雄感覚に尽きる。
一方エヴァは、小さなコミュニティの中で男同士を揉めさせる、ちょっとしたサークルクラッシャーみたいだ。

 美しいものに人は翻弄される。それが嘘か真実か見極める間もなく、アイドルにもタレントにも人々は魅力される。それが嘘であってもいいのかもしれない。そこに心の平静さえ求められるのであれば。
ケイレブもまた、理想の女性像が詰め込まれたエヴァに翻弄されてしまう。彼女によって人を疑い、憎しみ、失敗する。恋は盲目というが、AIへの恋は盲目の上に、さらに霧の中に埋もれさせられるようなものだ。

“実験”されているのが本当は誰なのかが分かった時、これは決してそう遠くない未来の話であることに気付いてしまう。