「これが殺意か…」恋人とだけ激しいケンカをしてしまう私たち

恋人と激しいケンカをしてしまう

不機嫌そうな女性の白黒画像 it’s me neosiam

「その時思ったんだよね。あ、これが殺意かって」

半年ほど前の食事の席で、友人のひとりがそう言った。彼女はとても優しい子だ。そこそこ長い付き合いの中でも、怒る姿は見た事がない。けれど彼女はこうなのだ。昔から、なぜか彼氏とだけは、かなり激しいケンカをする。

女の怒りはポイントカード式

今でこそ、私は彼氏とほとんどケンカをしない。でも、以前付き合っていた人とはそれなりに……ケンカと言えるのかすら微妙な、一方的なキレ芸を披露していた。

彼は毎回待ち合わせに遅れてくる人だった。理由は寝坊だったり仕事だったりでまちまちだったが、とにかく決めた時間には絶対に現れない。

「女の怒りはポイントカード式」なんて例えがあるが、わたしの場合はまさにそれだった。昨日まで「もう、遅いよ!コーヒーご馳走してね♡」で済ませていたし、気にしていないつもりだったのに、いつものように待たされたある日、突然「死ねよ……」の思いがグラグラと煮立つ。彼の顔を見た瞬間に、「おい、お前にだけ時差があるのか?」みたいな嫌味が口から出てしまう。それも能面のような真顔でだ。感情のコントロールが下手すぎる。

そうなったら最後、わたしはどこまでも頑なだった。ケンカになるならまだいいが、大体相手が引いてしまう。怒りの急速沸騰についてこれないのだ。う、きつい。今なら相手の気持ちがわかる。きつい。

恋人以外ともこんなケンカをするかと言うと、学生時代まで含めてもほとんど経験がない。遅刻魔の友人もいるが、「そういう子だから」とのんびり待つ覚悟ができている。というか、大人になってから頻繁にケンカをする相手なんて、恋人くらいじゃないだろうか。

考えてみれば、恋人というのは不思議な関係だ。「付き合おう」という口約束ひとつで(時にはそれすらなく)家族とも友人とも違う、特殊な関係になれる。「他の人とはセックスしないでおきましょうね」「なるべく誠意をつくしましょうね」なんて暗黙のルールで縛り合うことが許される。そのルールというのもほとんどが期待のあらわれだ。「恋人だから裏切らないはず」「恋人だから、わかってくれるはず」。

たぶん、人は期待を裏切られることが1番悲しく、許せないものなのだと思う。「浮気をしない」なんてのは当然だとしても、「わたしのしてほしいこと、言わなくてもわかってくれるよね」なんて、友人たちにはしない期待を、恋人にはしてしまう。

本来であれば、遅刻グセのある彼氏には、「待ち合わせはあなたの無理のない時刻にして」「そして待ち合わせ時間を守って」ときちんと伝えるべきだった。それを怠ったにも関わらず、「でも、次は時間を守ってくれるよね?」と勝手に期待して、裏切られ続けたことが、地味で嫌味な爆発に繋がったのだ。