恋人という名の宗教…彼の好きな女を必死に演じていたころ

彼の期待通りの恋人になろうする女性の画像

好きな人は神様だもんね

学生時代の友人に、好きな人ができるとすぐに周囲に悟られてしまう女の子がいた。相手の好みに合わせてメイクやファッションを変えるのはもちろん、趣味や考え方まで影響を受ける。突然サッカーにハマったかと思えば、数ヶ月後には美術館に通い始める。

「Cちゃんにとって、好きな人は神様だもんね」

わたしたち友人は、よくそんな風に言ってからかった。冗談のつもりだったのだけど、たぶんそれなりに的を射ている。ある種の人たちにとって好きな人・恋人は、一番身近な神様なのだ。

神様、愛してくれますよね?

数年前まで、自分は恋人に影響を受けない方だと思っていた。彼氏がアウトドア派でも自分はインドアを徹底していたし、「こういう格好をしてくれ」と言われてファッションを変えたこともない。けれど冷静になって考えれば、大学を卒業してしばらくの間は、彼の求める恋人像を必死で演じていたのだった。

大学を出て就職したての頃、自分のあまりの使えなさにあっという間に心が折れた。結婚に逃げたくてたまらなくなった。
あの頃指摘されても頑として認めなかっただろうが、指輪をくれる(かもしれない)彼は、わたしの救世主であり神様だった。

普段は顆粒だしと電子レンジで味噌汁をつくっているくせに、当時はどんなに疲れていても、丁寧に出汁をとった料理で彼をもてなした。男子がいるという理由で同窓会をドタキャンしたこともある。

彼はわたしに「料理に手抜きをするな」と言ったことはない。外食先の和食屋で「インスタントの味噌汁なんてありえないよね」と言うだけだ。「男のいる同窓会に行くな」とも言わない。「同窓会、男もいるんだ」と言って、しばらく機嫌を悪くするだけだ。だから、すべて自分の意志。彼に命令されていない。わたしは彼のいいなりだったわけじゃない。

神様に気に入られたい自分と、彼と対等でいたい自分がいた。気に入られたい自分が強くて毎回忖度してしまうけど、言われる前に行動すれば、「はじめからそうするつもりだった。たまたま彼も気に入ってくれたみたい」なんてしょうもない言い訳ができる。……そう、自分にだ。

彼とは結局結婚できず(他の女と結婚するから別れろという最悪の終わりだった)、ひとりになったわたしは、反動なのかしばらくは「男の好みになんて合わせてたまるか」というスタンスをとった。
たとえばAとBという選択肢があった時、新しい彼にAを勧められたなら、無理をしてでもBを選んだ。相手を試していたんだと思う。思い通りにならないわたしでも、好きでいてほしかった。そういう態度で相手を疲れさせ、別れてしまったこともある。
恋人を神様にしないことは、恋人に反発しつづけることではなかったのに。