普通の人生には結婚がマストだったのに…彼氏は別の女と婚約した

結婚しないなら死んでくれ

海辺で女性が膝を抱えて座る画像 Pixabay

人生で1番強く結婚を望んでいた時期、幸か不幸か彼氏がいた。彼は7歳年上の営業マン。わたしの就職活動中から、社会人2年目の夏まで付き合っていた。

当時死ぬほど結婚したかったが、彼にその意志は伝えなかった。なぜなら、わたしはただ結婚がしたかったのではなく、彼から強く望まれた末の結婚がしたかったからだ。
わたしは「男から求婚される自分」になりたかったし、「仕事から逃げるため」という理由には我ながら小賢しさを感じており、彼から強く望まれることでそれらを帳消しにしたかったのだ。

自分では絶対言えないのだから、彼からプロポーズしてもらうしかない。
「結婚相手に選ばれるには」なんて本やネットの記事を読み漁り、彼の機嫌を伺った。予定はいつでも彼次第。どんなに疲れていても薄化粧をして、丁寧にだしをとった味噌汁を作った。
必死さが伝わったのだろう。ある時期から、彼が日常的に結婚の話題を出すようになった。

「将来こういう所に住みたいね」
「奥さんになる人にはそういうことしてほしくないな」

主にわたしが彼の思い通りに動かない時だ。そんな言葉を聞くたびにわたしはひとりで舞い上がり、無理して彼の要望に応えた。『普通の人生』に結婚はマストアイテムで、彼が与えてくれると信じていたのだ。

結婚するからさようなら

指輪をもらえず、落胆した誕生日から数ヶ月。最近「結婚したら」なんてことも言われなくなったなぁ。もっと頑張らなくちゃいけないのかな。そんな風に考えながら彼の家で身支度をしていた朝、いつになく真剣な顔で「話がある」と手を引かれた。ついに来た! と期待に輝くわたしの目から、視線を逸して彼は告げた。

「結婚……することになりました」。

することに? ……誰と? ……わたしとじゃないの?

期待が一気に枯れ、足の先から冷たい不安が染み入る感覚を、今でもよく覚えている。唖然とするわたしに向かって、彼は勢い良く頭を下げた。「だからごめん、別れてください」。

彼によると、ここ1年間わたしの他にも彼女がいたらしい。女の勘は鋭いと言うが、わたしの目は節穴である。相手は職場の先輩だそうだ。その先輩に外堀を埋められ、結婚する流れになってしまった。言うべきだとはわかっていても、今日まで言えずにいたそうだ。彼は泣いていた。泣きたいのはこちらだと怒鳴りつけたい気持ちはあったが、彼の涙を見るうちにわたしも号泣してしまった。ちなみに昨夜も滅茶苦茶セックスしている。本当に死んでくれ。頼む。

わたしは「別れたくない」と駄々をこね、その時初めて「あなたと結婚したい」と言えた。でももう遅くて、彼は他人の婚約者だった。彼も「別れたくない」などと言いだし、ふたりでわんわん泣きながら、この安い悲劇に酔った。あたかも運命に引き裂かれたかのようだが、引き裂いたのは彼、というか彼の節操のないチンコである。

それからの泥仕合は割愛する。彼は「外堀を埋められて」なんて話していたけれど、単純にわたしより彼女が好きなのだと実感させられるはめになった。そして数ヶ月後に、本当に結婚してしまった。