免許、持ってますか?
わたしは運転免許を持っていない。必要なかったからである。年配の方には驚かれることもあるが、大抵は「そう。必要なかったんだね」とさらっと返されて終わりだ。「免許をとる能力がない」とか「とりたいのにとれないのでは」なんて言われたことも一度もない。
でも、それが結婚となると、「必要ない」ではどうやら済まされないらしい。
しない女とできない女
わたしが初めて就職した会社は、従業員200名ほどの中小企業だった。良く言えばアットホーム、悪く言えばプライバシーに無頓着な職場だった。
新入社員の自己紹介後に「彼氏(彼女)はいるの?」という質問が飛ぶのはザラで、入社して3ヶ月もすれば、独身社員の恋人の有無が大体把握できてしまう。常に噂話が飛び交い、「◯◯さんは別れたらしいよ」「✕✕さんは女子大生と付き合い始めたって」などと情報はアップデートされていく。
配属先の女性社員の優秀さに気圧されて、結婚に逃げたくなったことは第1回目のコラムに書いた。でも、本当のことを言うと理由はそれだけではなかった。
女性が未婚のまま“ある一定の年齢”を超えると、「結婚できない女」として雑に扱うことがどうやら許されるらしい。もちろん「一部の男性の中では」という但し書き付きだが、少なくともあの職場ではそれがまかり通っていた。
ことあるごとに「だから結婚できないんだよ」「そんなんじゃ嫁にいけないぞ」なんて軽口をたたかれ、言われた方はスマートにかわす義務があるかのようだった。
「白井ちゃんは彼氏いるんだっけ。
ここのおばさんたちみたいになる前に、さっさと結婚しちゃいなね。」
複数の部署合同での歓迎会という場。しかも、先輩たちのいる前で、ある男性社員にそう言われた。彼に悪気があったかと言えば別になかったのだろうし、むしろ新入りのわたしを持ち上げたつもりだったのかもしれない。でも本当に頭が悪い。嬉しいわけがないし、その場で放り投げられた私が困るのがわからないのだろうか。
当たり障りのないリアクションでなんとかかわそうとするわたしを見て、先輩のひとりが「ひどーい!」なんて明るい声で場を和ませてくれた。
ははははは……。わたしは愛想笑いで場に溶け込みながら、どんなに優秀で素敵な女性でも、このしょうもなさすぎるイジりから逃げられないんだなと、ひどく虚しい気持ちになった。
- 1
- 2