砂漠で差し出された水のように

 その浮気のセックスは、相手のテクニックやプレイ内容といったフィジカル面もよかったのですが、それ以上にメンタルにずしりと響きました。
たとえるならば、砂漠の中をずっとひとりで歩いてきたところで、偶然出会った人に、水の入った水筒を目の前に差しだされたような感覚です。ずっと喉が渇いていたのに、「砂漠なのだから仕方がない」「水筒を持っていないのだから仕方がない」と思っていた。このまま干からびて死んでいくと思っていたところに「生きろ!」と言われた気分でした。そして、うっかり甘露を味わってしまったわたしは、「そうだ、わたしは生きる!」とばかりに、積極的に行動を始めたのです。

 リミッターの外れたわたしが次に寝たのは、よりによって結婚パーティーの記念品のデザインを頼んだ男性でした。もともと彼のデザインのファンだったので「せっかくの機会だから、ぜひお願いしたい!」と思い、婚約者の了承のもと、デザインを頼むことになったのです。

 打ち合わせという名の初のサシ飲みは盛り上がり、「またふたりで飲みに行こう」と約束をして解散しました。終電間際の小田急線の中で、「次に飲みにいったらヤっちゃうだろうなぁ」と思いながら、打ち合わせをわたしに丸投げした婚約者に対する「だから言わんこっちゃないでしょ?」という暗い報復の気持ちもありました。

 というのも、「せっかくの休日は結婚式の準備ではなく、自分のしたいことに費やしたい」という彼の願いを叶える形で、司会者との打ち合わせもレンタル衣装屋に足を運ぶのも会場の見学さえも、わたしはすべて、ひとりで行っていました。そのことが本当は嫌だった。

 もちろん彼には「準備に付き合ってほしい」と幾度も頼んだのですが、なぜか彼は肝心の当日になると熱を出したりするのです。「熱ならば仕方がない……」と自分の気持ちを無理やりに納得させながらも、ひとりでする結婚準備は、楽しいどころかつらいだけでした。