わたしの応援の仕方は正しいのか?――「推し」に感じる、不完全さを許さない空気

「推し」がいるのに、「推し」という言葉が苦手だ

by Anthony DELANOIX

世の中で普通に使われている言葉でも、自分は使いたくない・できれば避けて通りたい言葉っていくつかあると思う。私の場合は「推し」がそれに当たる。私は、「推し」という言葉があまり好きではなく、できるだけ使用を避けている節がある。アイドルが好きで、言葉の定義通りの「推し」がいるにも関わらず、だ。

先日、赤レンガ倉庫前の広場で行われたODD BRICKに行ってきたんですよ。Kamasi WashingtonにLittle Simz、韓国からはHYOLYNにTREASURE、国内ではALIやAwitch、STUTSなど、結構なんでもありなメンツ。後半になるにつれて雨がどんどんひどくなったけれど、好きなアーティストばかりだし、ミーハーな私はこのジャンルレスなフェスでも思いっきり楽しむことができ、とてもいい一日になった。

そのなかでも特に「絶対に見たい!」と思ったのが、Balming Tigerという韓国のHIP HOPグループで、最近BTSのRMが参加した楽曲が発表され知っている人も多いだろう。フロントマンのOmega Sapienは日本への留学経験もあり、過去に発表した楽曲のジャケットには、駕籠真太郎が担当したものがあったりもする(駕籠真太郎がアートワークを担当した楽曲って大体いいですよね……Flying Lotusとかさ)。このコロナ禍でかなりハマったアーティストのひとつだ。

ステージが小さいからか音がちょっとしょぼめなのが気になりはしたが、かなりいいな~! と思った。ワクワクしながら待っていると、登場してすぐにお茶目なダンスを踊り、笑いをかっさらいながら自分たちの空気を作っていく。盛り上げどころ・聴かせどころの強弱がはっきりつけられ、タイプの異なる声色がグッと締まる。特にsogummのクリアな声よ! 楽しいステージだったな、アジアのHIP HOPってやっぱりすっごく面白い!!!

で、ステージ自体はよかったんですが、後ろで女性2人組が「かわいい~推したくなるね!」と言っていて、まあそれ自体はどこにでもあるなんでもない会話のひとつなんですが、私は「推しという言葉が嫌いかも」と改めて思っていた。HIP HOPグループに対して使うのはちょっと違うのでは? と思ったからというのもある。しかし、そもそも「推し」という枠組みに生身の人間を当てはめるのにちょっと抵抗があるのかもしれない。日常的に使用している人を否定する気もないし、私が偏屈なだけなんですが……。

「推し」…不完全さを許さない言葉に感じてしまう

「推し」って言葉って、恋愛的な意味で好意を抱いている「リアコ」「ガチ恋」と線引きをしながら、最も応援したい存在に対して使われると思うんですよ。当初は女性アイドル(特にAKBグループ)を中心に使われるようになった記憶がある。最近では、K-POPから俳優、アニメ・漫画のキャラにも使われるような、この世に存在するものへの「好きの最上級表現」として、とりあえず使うことができる言葉なのではないでしょうか。

しかし、時の流れとともに言葉の意味は変わり、この「推し」が信仰や偶像崇拝に一層近づいている気がしているんですよね。「尊い」などと併用される様子とか見ていると。自分と同じ人間として扱っていないというか、自分の推しが自分自身を絶対に認知しないこと前提で使われているというか、推しているだけで許される範囲が広がる印象を持つというか。

だからこそ、自分の推しをアイコンにする人とか写真を載せて「かわいい~」とか言ってる人が出てくるし、ステージや創作の場以外での私生活でも完璧であることを要求してくる人もいる。自分とは異なる存在であるのは確かなのだが、人の必ず持つ不完全さを否定しうる言葉な気がして、いつもこの言葉を使うには身が引ける。