その欲望は、本当に自分が望んでいることか認識する

東京大学准教授・出口剛司先生 東京大学准教授・出口剛司先生

――しかし、お金では「排他的な関係」に持ち込めないのに、ホスト狂いのように多額のお金を貢いでしまうのはなぜでしょうか。

ホストの世界には特殊な部分があると思うので詳しいことはわからないのですが、ホストに通う女性が本当にホストからの愛や承認がほしいかというと、私は違うような気がするんです。むしろ、そのホストの周りにいる大勢の女性の中で、「自分が1番になりたい」という欲望が大きいような気がします。

――たしかに一番ホストに貢いでいる女性を「エース」と呼ぶシステムがあります。

ホストに振り向いてもらえれば、他の女性、他のファンたちの羨望を買うことになりますよね。「他人があなたに屈服し、あなたのことを羨ましがる」、つまり「承認をめぐる闘争」に勝ったということを意味します。

これは女性に限らず、アイドルも、港区女子もそうなのかもしれませんが、お金を支払っているのはただホストに振り向いてもらうためではなく、心の底で本当に求めてる別の承認の欲求があるからかもしれません。それがホストのうまい仕組みになっているのかなって思いますが。

――AMで実施したアンケートでも、「そういう仕組み」「偽装恋愛だ」と認識はしているとのことでしたが、分かっていても、どんどんお金をつぎ込んでしまう要因は何があるのでしょうか。

そうですね。社会学だと「アディクション」と呼びますが、ある種の依存症でしょうか。アルコールにも、恋愛にも、ギャンブルに対しても起こることがあります。

依存症にはまってしまう仕組みは、「満足」と「不安」を同時に経験することです。「満足」のみを追求しようとするのですが、相手がホストの場合、本人も振り向いてもらえるのは「お金」ということをうすうす自覚している。だから満足を追求すると必ずそこに「不安」がつきまとい、その不安を打ち消すためにまた「満足」を追求する、というスパイラルに陥ってしまうんです。

――「満足」と「不安」の繰り返しですか…それはしんどいですね。

おそらく、ホストや依存しやすいものに不健全にはまってしまう人は、そのアンビバレントな気持ちを常に抱えてしまうんだと思います。たとえホストで得る承認関係は嘘だと知りながらも、日常生活の辛さや不安を打ち消すために、楽しいホストの世界にのめりこんでしまう。
それに対して、健全にはまる人は「これはお金で私が設定した場面だ。ここから一歩出れば、私には別の生活があるんだ」と割り切って遊べるんだと思うんです。

――不健全にはまらないためにはどうしたらいいでしょうか。

本当にそれが自分の欲望なのか、と認識することです。
おそらくホスト通いにハマってしまう人は、他のファンたちの欲望を自分の欲望として抱え込んでしまい、それを自分が率先して実現することで、ファンの羨望を買うという快楽に陥っている。
つまり、他の人たちが欲望していることを、自分の欲望として実現したという構造になってしまうと不健全になってしまう。それがホストや依存しやすいものにはまっていく人と、「これは遊びだから」とどこかで割り切れる人の違いなのかなと。