日本が初めて直面した「関係性をつくる」ことが難しい今/東京大学・出口剛司先生(後編)

「愛はお金で買えるのか?」…現代を生きる私達が悩み続けた難問に、「承認」「排他的な関係」「居場所」「欲望」「本能」などをキーワードに答えてくださった東京大学の出口剛司先生。インタビューの後編では、承認欲求にまみれた社会で生きやすくなるための方法を伺います。

 愛はお金で買えるのか? 承認欲求を満たしているのでは? という推測からスタートした本特集
後編は、承認欲求が高まっている今どのように生きていくのが理想か、『〈私〉をひらく社会学』『エーリッヒ・フロム――希望なき時代の希望』などの著書がある東京大学・出口剛司先生にお話を伺いました。

日本社会があらたに直面した問題

東京大学・出口剛司先生
東京大学・出口剛司先生

――前編では愛がお金で買えない理由と、承認欲求と上手に付き合っていかなくてはならない、ということを教えていただきました。

そうですね。あと、最近はAIが発達してきたので、「ロボットに心はあるのか」も私の研究テーマなんですけど、もし日常生活をアシストしてくれる初音ミクのような、サービスロボットが登場したら私たちの世界はどうなるのかと考えています。

――AIが承認関係に関与してくる、ということですか?

AIには「ディープラーニング」という、話しかけるとその人にあった反応をどんどん学習していくプログラムがあるので、ある程度は対等なコミュニケーションができるようになるんです。そうすると、話し相手によって反応パターンも違ってくるので、その人だけの特別な存在、「排他的な関係」になりうるかもしれません。

  昔「AIBO(アイボ)」という犬のロボットが話題になりましたが、飼い主はお葬式したり、「献体」と言って部品を寄付したり、まるで「生きてる」「心がある」ように接していました。AIにも同じようなことが起こるかもしれません。今もっとも恐れているのは“ロボットに承認されて満足する世界”、まさにディストピアですよね。でもそういう世界について考えないといけない。

――近い将来にありえそうな話ですね…そうなると、ますますどうやって生きていけばいいのか不安です(笑)。

やっぱり安定した人間関係をつくることじゃないでしょうか。
最近は、職業にしても、友達にしても、恋愛にしても、どうやっていい出会いを「見つけるか」ということに、すごく価値を置いている気がします。時間もなく忙しいし、一歩間違えるととんでもない被害に遭うので、神経を使うことは決して間違っていないんですけどね。

  ただ、1年、2年、3年…と関係性を継続することによって、そこがやがて自分の居場所になるので、承認欲求も沈静化されてきます。
承認欲求自体が悪いものだとは思わないのですが、不安定さは解消してくれるんです。もちろん出会いがないとなにも始まらないのですが(笑)。

――運命の出会いとか、夢見がちだとは分かっているんですけどね(笑)。

ちなみに「恋に落ちる」ってよく言いますけども、恋に落ちるときに感じる感情の激しさは、今まで孤独だった度合いの裏返しにすぎないんですね。つまり、不安の裏返しなんです。だから、そこを運命的な出会いだ、これは恋愛だと思っちゃうのはよくない(笑)。単に自分が今まで寂しかったから感じてるだけなんです。

――なるほど(笑)。そうなると、これからは「関係をつくる」手法を身に着けなくてはいけませんね。

今までは生き方が決まっていましたから、「デートのときはこうする」とか、「結婚して家族生活はこうやって営む」といった暗黙のルールに従えば、苦労をしなくても関係性を作れた。まぁそれが男性中心主義だったわけですけど(笑)。

  今は働く女性が増え、家事しない男性はほとんどいない時代になって、これまでのやり方では通用しなくなってきている。だから今、どうやって関係性をつくっていくかっていうのは、初めて日本社会が直面した事態かもしれないです。