ワンパターンな彼のセックスを乱すことは刺激的で楽しい

「想定外」は刺激的で楽しい 

by Ava Sol

セックスの前、必ずオアシスのミュージックビデオを見せてくるバンドマンがいた。なんでオアシス? という謎もあるのだが、それよりおもしろかったのは、いつも同じ曲(たぶんオアシスの中ではマイナーな曲)の同じタイミング(サビ直前)でキスしてくるところだった。だから私はその曲の後半をちゃんと聞いたことがない。唾液や呼吸のやりとりに夢中になって、だんだんと音楽が遠のいていくのだった。

その後のセックスも流れがだいたい決まっていて、彼はいつも同じように、私の上におおいかぶさり、私にキスをしながら射精した。「ワンパターンな男ね!」と怒ってしまうこともできるだろうが、しかしワンパターンな男と付き合うのもそれはそれでおもしろい。だって、私がそのパターンを乱すことができるのだから。

ある日、玄関に入った瞬間に不意打ちでキスをすると、彼は驚いたようで、そっけなく洗面所に歯を磨きにいってしまった。「びっくりした?」と聞いてもムスッとしていて、「かわいいなぁ」と愛おしく思う。自分のペースでないと上手くふるまえない人の、下手くそな面を見られるのはおもしろい。

また別のある日、挿入前のフェラチオで私がちょっとがんばりすぎて不意に射精させてしまった。思ったタイミングと違ったことに彼は慌てていたが、私はその姿をニコニコ眺めていた。もともとの「想定」がばっちりあるからこそ「想定外」が発生するとも考えられる。ベッドの上での想定外は多ければ多いほうが刺激的で楽しいと思う。

だから好きな人の家にキスをしに行く

何年か前、女性作家の新作刊行記念トークイベントを聞きにいったときのこと。トークテーマが決められているわけではなかったが、ほとんどの人が新刊にまつわる話が展開されると予想していたと思う。ファシリテーター役の男性編集者も分厚い資料や質問を用意し、トークの流れを綿密に計画していたようだった。

「えっと、それでは~」と男性編集者が手元のメモに目を落とした瞬間、その女性作家は「そんなにメモあるの~! 考えすぎだよ~! いらない、いらない。ライブ感が大事だから」などと言い放ち、「小説の話が聞きたい? 雑談のほうがいいかな?」と客席に問いかけた。編集者は想定外の事態に慌てて小説の話に戻そうとしていたが、結局はほとんどその話にならず、編集や装丁のこと、ギャラ事情、さらには作家の日常的な話など、比較的くだけた内容のトークイベントとなった。

たしかに小説の内容については他のインタビューや文芸誌などで整理されて読むことができるだろう。であれば、せっかくその場に出向いたのだから、今この場でしか聞けない話を私は聞きたい。入念な準備をしてきた男性編集者はかわいそうだったかもしれないが、その作家の奔放な明るさはとてもチャーミングで魅力的に見えたことを覚えている。

それがどんなに良い内容でも、あらかじめ決められた流れに身を任せる体験自体はおもしろいものではない。作家は「ライブ感」と表現したが、たとえ途中グダグダになったとしても、次にどうなるかわからない、自由な思いつきに委ねられた場を体験するのは楽しいものだ。だから作家のトークライブに行くし、バンドのライブに行くし、好きな人の家にキスをしに行くのではないだろうか。