夫に「もうセックスをしたくない」と言われて…

 アラフィフのビーズアクセサリー作家、武子の夫は売れない日本画家。
夫婦仲は悪くはないが、ほぼセックスレスの生活を送っている。かろうじて一年に一度「七夕」(年一度)くらいの交わりがあったのだが、ある日のこと――。

「武子には悪いんだけど、もう性欲が湧かないんだ」
「……どういうこと? 今日はたまたま調子が悪いってことじゃなくて?」
「これからもずっとそうだと思う」
「じゃあ……もし私がセックスをしたくなったらどうしたらいいの?」
 できるだけ軽い調子で尋ねた。今までも、私たちはセックスについて話し合って努力してきた。私は夫があまりセックスを求めないことを責めないようにしていたし、彼は妻が求めるのをすぐには拒まないようにしていた。
「僕には他に好きな人や付き合っている人はもちろんいない。女でも男でも。武子が一番好きだよ。でもセックスは別なんだ。前にも言ったと思うけど、セックスは好きじゃない。若いときはそうでもなかったけど、最近はすごく苦痛に感じるようになってしまった。それを隠すのも限界に来てる……だから『おつとめ』は引退したい」
 頭を殴られたようなショックだった。それほど、私とのセックスがいやだったのか。そんなに、我慢してセックスをしていたのか。今までの話し合いなど何の意味もなく、すべては私の自己満足に過ぎなかったのか。(『甘いお菓子は食べません』収録『花車』P49L3- P49L16)

 この「出来ていると思った話し合いが、実はなんの意味もなかった」ことを知った気持ちを一言で表すならば、脱力でしょうか。長く付き合ってきたからこそ、このパートナー発言が、自分たちの根底を覆すような気持ちになることには想像に難くありません。

【後編に続く】

Text/大泉りか