批判からは一歩後退。SNSにはアレンジを

――今年はコロナの影響で必然と家族と一緒にいる時間が増えたと思うのですが、この時期に家族との接し方でハッとしたことや、面白かった出来事を教えて下さい。

愛:より一層家事をサボるようになりました。今日は何もしない日と決めて、週一回「味の素の冷凍餃子」をホットプレートで焼いて食べるっていうルールを導入しました。どうしても閉鎖的になってしまうので、お互いストレスにならないようにのんびりしてましたね。

山田:たしかに家族と過ごす時間は大切でしょうが、ずっと一緒にいるのはちょっとしんどいなと思う瞬間も正直ありました。オンライン飲み会も流行りましたけど、コロナの時期はやたらと「人との繋がりや絆が大事」ってみんな言い過ぎてたなって。前向きな言葉ほど精査されずに発信されてしまう傾向があるなと。
圧が強くてちょっとしんどいなって感じることが多かった。

愛:そうですね。私も自分がフォローしてる全員をミュートしてました(笑)。意見を発信することも大事な時代とは思いながらも、SNSに挙がった膨大な意見に自分自身ががんじがらめになってしまう気がして。

――SNSもコロナの時期はいつもより殺伐としていましたもんね。

愛:「みんなでひとつに」みたいな前向きな意見も本人が思うのは自由ですけど、価値観は他人に押し付けるものじゃないですよね。以前、シャウエッセンを食卓に出した写真を投稿したら、「こんな栄養が偏ったものを旦那さんに食べさせるなんて」とコメントが来たことがあって。すごく腹が立って、ブログで反論したことがあります(笑)。

――愛さんのように日々の生活のことも呟けば、それに対する賛否両論がすぐに返ってくる時代じゃないですか。それでも「うちはうち、よそはよそ」と思えるために、お二人は何を大切にするべきだと思いますか?

山田:愛さんが仰る通り、「ミュート力」は鍛えた方が良いなと思います。
「一発屋芸人」と名乗っていると、色々あって。
あるとき、高校生くらいの子が「地元のショッピングモールに買い物にきたら、髭男爵が漫才してた。まあ私は見ないけど」ってツイートしてたんです。
何のアピールやねんと(笑)。

愛:言わなくていいのに……。

山田:アピールすることで自分が属しているコミュニティでは手柄になるのかもしれないけど、僕ごときをスルーした程度のことで一目置かれるような、そんな友達はしょうもないよと言いたい。
肉を切らせて骨を断つみたいで不本意ですが(笑)。
僕は「イヤやな」って思うつぶやきを見たら、目を細めて物理的にミュートにすることにしている。
若い頃なら何くそ! と糧にしたかもしれないですが、40歳超えたら一々付き合う時間や精神力がもうないんですよ(笑)。

愛:私もそうしたいなと思いつつ、中には一方的な悪口や否定じゃなく「おっしゃる通り」と思う意見もあるじゃないですか。そういう場合ってどうしてますか?

山田:いずれにせよ、その意見を取り入れるかどうかはこっちの都合ですから。例えば、耳が痛くなるような正論でも、鼓膜が破れそうなほどのものなら無視したって良いわけです。何でもかんでも真摯に耳を傾け、受け入れて成長する、そんな義理はないと思っているんで(笑)。

愛:その方が精神衛生上いいですよね。Twitterでも向上心が高くて真っ当な意見を言っている人は見かけますけど、本音ではやっぱり甘やかされて生きていたいと思っちゃって。

山田:それでいい、無理にキラキラする義務はないんですよ。週末バーベキューって楽しいよと言われても、僕はできるだけつまらなく、粛々と暮らすことを心がけてるので(笑)。

愛:おっしゃるとおりですね。他人の意見から一歩後退する力も必要なんだなって思いました。

山田:僕はよくSNSを「人間性の高速道路」って言うんですけど、みんなビュンビュン車を走らせて、おまけにナンバープレートを隠した状態(匿名)だから捕まらないと思ってるんですよね。SNSは便利で役に立つものだけど、時にはミュートやブロックで‶自分仕様〟にアレンジを加えないと怪我をするんじゃないかと。

――最後に、家族と共に暮らす上でお二人が一番大切にしていることを教えて下さい。

山田:完全無欠のファミリーではないのでしょうもない喧嘩もあるんですけど、そういう時は僕から折れるようにしてます。ちょっとかっこいいことを言うと、「自分が折れてもいいと思える相手だからこそ結婚したんじゃないのか」と常に思ってるんですよ。

一同:かっこいい!!

山田:思う壺ですね(笑)。
いや、単純に、家族間の喧嘩で「俺が正しいと思っていることを相手にも認めさせる」というテンションでやってるとしんどい。それだったら、ちょっと時間おいてから「さっきは俺の言い方が悪かったわ」って謝って仲直りしておく。そういう誤魔化しの上に日々が成り立ってますけど、それでいいと思ってる。いつも納得する必要はない。

愛:私は「察してちゃん」にならないように気をつけてますね。自分の機嫌が悪い時は何をされても気にいらないので……あらかじめ、「どうしてもこういうときがある」って伝えてます。人間だから、どんな時もベストの状態ではいられないじゃないですか。でも夫は私の言葉をそのまま受け取ってくれる人なんです。「機嫌が悪い」って言えば「そっか、機嫌が悪いんだな」と思ってそっとしておいてくれるし、「口を挟まず、黙って最後まで話を聞いてほしい」って言えばその通りにしてくれる。だから、あまり意見がぶつかり合うことはないんですよね。

山田:やはり仏のような方ですね(笑)。愛さんの本を読むと、お2人にとってはごく普通の日常なんでしょうが、やっぱり旦那さんは仏ぶりは異常で、その旦那さんと愛さんのやり取りが面白い。
そして、単純に文章として最高に面白かった。

愛:うわ〜ありがとうございます、泣きそう。「山田ルイ53世」って腕にタトゥー彫ります!

山田:それも旦那さんは許しそうで怖い(笑)。

Text/苫とり子
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