夫が見ている動画をわざわざ聞いてみた

夫婦でユーチューブを見ること自体がまずないのだが、夫がスマホでユーチューブを見ているのは見たことがある。

しかし「何を見ているの」とは聞いたことがないし、聞いたところで「ほーん」である。

それでは話にならないので、わざわざ夫に「いつもどんなユーチューブを見ているのか?」と聞いたところ「餅をすごい速さでついている動画を良く見る」という返答が帰ってきた。

一瞬「ほーん」と言って部屋に戻りかけたが、それではいつもと同じなので、実際その動画を一緒に見てみることにした。

その動画は、老舗の和菓子屋で、職人がものすごい速さで餅つきをする、というもので、10分の動画の中で、計三回、職人がものすごい勢いで餅をついていた。

その動画を見ている間、夫は「俺も仕事で餅をつくが、こんなに早くはできない」「一年に三回は餅をつく」と言っていた。

夫とは15年のつきあいになるが「年三回餅つき」は「NEW」な情報である。

そして「すごい速さで野菜を切る動画も見る」と言っていたので「すごく早く何かするのが好き」ということもわかった。

このように「ユーチューブを一緒に見る」というのはコミュニケーションとして結構良い気がする。

私は落ち着きがないので「一時間テレビを一緒に見ろ」と言われたら正直苦痛だ。しかしユーチューブは比較的短いものが多く、テレビほど情報過多ではなく、いい意味でゆるいので、その間会話もしやすい。

しかし、夫が紹介したのは、「よそいきのユーチューブ」な気がする。

仮に、セクシーVチューバ―のARMS動画をヘビロテしていたとしても、それを「これおヌヌメ!」とは言わないだろう。

その点餅つき動画なら「男同士でこんなに激しく餅をつきあう動画を見ているなんて引くわ」とはなかならならないはずである、むしろ引いている奴に引く。

ちなみに私が今まで一番再生したユーチューブは「八甲田山雪中行軍遭難事件」のウィキペディアを機械音声に朗読させている動画だと思う、もはや動画ですらない。

私もいつ夫にお勧めのユーチューブを尋ねられても良いように「よそいきのユーチューブ」を見つけて置こうと思う。

Text/カレー沢薫

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