13歳年下夫をリードしなきゃ…頼れないわたしを変えた「毛玉取り事件」/はせ おやさい

カップルや夫婦にとって便利なサービスやガジェットは年々増え、家事分担や予定調整など、ふたりの生活をスムーズにする活用方法も広まってきました。
ただ、急に二人の間に新しいシステムを導入するのも難しい…! この連載では、表に出づらい、二人の問題にそもそもどう向き合って解決したか、までの流れを語っていただきます。

年上のわたしがリードしなくては…

年下の夫に頼れるようになった妻の画像 Wes Hicks

はせおやさいさんのお話

40の大台に乗るころ、バツイチ再婚という形で現在の夫と結婚することになった。二度目の結婚相手となる彼は13歳年下で、わたしと結婚するまでは大学卒業後ずっとニートをしていた(……と、冒頭から不穏な感じで書き出してしまったが、現在ではちゃんと稼ぎを得ているので安心してほしい)。

しかし夫自身、生来の楽観的な性格や、あまり大金を稼ぎたいと思うタイプでもないため、大船に乗った気持ちで結婚生活をスタートできたわけではなかった。年下の夫はどうですか、頼りないということはないですか、と問われることもある。たしかに、年齢にともなった経験値でいうとわたしのほうが豊富だし、経済的にも、精神的にもまだ頼りない面が多々あるのは事実だ。

とはいえ、そこは結婚のいいところ。「一人口は食えぬが二人口は食える」と昔の人は言ったそうだが、厳しいこの社会の荒波も、ふたりでならなんとか乗り越えていけそうだ。それに経済的にしろ精神的にしろ、そこは自分がしっかりリードを取って、彼を引っ張っていけるだろう、なんといってもわたしは彼より圧倒的に年上なのだから、と、思っていた。わたしの妊娠が発覚するまでは。

突然の妊娠期、このままどうなるの?

わたしの年齢もあり、あまり期待せず始めた妊活だったが、予想より早く妊娠が発覚した。とはいえ、妊娠がわかってからしばらくは、まだ冷静だったように思う。妊婦としての生活を整え始めるのは、思ったより楽しかった。周りからの祝福もうれしかったし、新しく住む街もよさそうだし、さあ、晴れ晴れとした新婚生活のスタートだ、と思っていたが、甘かった。

すでに経験のある方には既知のことかもしれないが、妊娠中というのはとにかくホルモンに振り回される。精神的にアップダウンが激しくなり、大きくなるお腹に向かって「わたしがママよ!!」とハイテンションになる日もあれば、「このまま無事に産めるのだろうか」「ちゃんとした母親になれるのだろうか」と不安で泣いた夜もあった。
大きくなっていくお腹を抱えていると、外出も怖くなる。通勤や最低限の外出を除くと、なるべく家に引きこもっていた。さらに「つわり」を始めとして体調が不安定になるので、やたら眠く、暇さえあれば寝ていたい……となり、夫とのスキンシップも減ってしまった。新婚だというのに!

思うようにならない身体と、これからの生活――主に経済的なことを考えると、いても立ってもいられないような気持ちだった。冷静にならなければいけない、自分がしっかりしなくてはいけない、と、どんどん追い詰められていった。妊娠は初めてとはいえ、社会経験も知識も、わたしのほうが圧倒的に豊富なのだ。わたしがリードを取って、夫と一緒に歩むための地図を描いていかなくては……と、気持ちは焦るばかりだった。

深夜に原因不明で救急車に……

そんな焦りを抱えつつ、臨月を間近に控えていたある深夜、突然、原因不明の呼吸困難になった。妊娠に伴う不調はいくつかあったが、息ができなくなったのは初めてで、激しく混乱した。
ベッドから起き上がり、壁に手をついて呼吸をしようとしても、うまくいかない。空気が入ってこない。脇腹から肺にかけて刺すように痛み、息ができない。焦るうち、だんだん過呼吸のような症状になり、よろけてベッドサイドの棚に倒れ込んだ。その音で目を覚ました夫に救急車を呼んでもらうよう頼んで、診察のために何が必要なのか考えを巡らせた。

怖いのと苦しいのとで涙が出そうだった。寝ぼけまなこの夫に荷物をまとめてもらい、なんとか服を整えて救急車でかかりつけの病院へ飛び込んだ。救急外来のベッドは冷たくて硬かった。妊娠中ということもあり、レントゲンは撮れない。強い鎮痛剤も使えないので、妊婦でも服用できる痛み止めを気休め代わりに飲んで、専門医の出勤を待つことになった。

とりあえず病院についたことで安心したし、痛みは和らぎつつあったが、恐怖はまだ霞のように漂っている。こうして待っている間、また呼吸困難になったらどうしたらいいんだろう? 原因不明ってどういうこと? じっと待っているのはなかなかしんどいが、スマホでググっても、回答が出てくるわけはない。そもそもスマホを取り出す余裕がない。

どうしよう、どうしよう、と横になりながら、もうろうとする視界のすみで、夫がベッドの横にじっと座り、自分のセーターの毛玉をむしっているのが見えた。

「こんなときに、何してんの!」と叫びたくなった。

が、声を出す元気もない。しかし、その行為を見つめていると、不思議とわたしの精神も落ち着いてきた。たしかにいまのわたしたちには、医師の到着をおとなしく待つくらいしかできないのだ。だったら、自分で自分を追い込んでどうする。

夫が毛玉をむしる指先を眺めながら、そんなことを考えていると、だんだん焦る自分がバカバカしくなって、ザワついていた心が少しずつ大人しくなっていった。
夫の毛玉取りは夜明けまで続いて、その単純作業を眺めながら、少しだけ眠ることができた。その後、出勤した医師に診察をしてもらうも原因は不明。様子を見ましょうということでその日は退院となった。