自己中心的な夫が「家族の幸せ」をツイートする理由/松田佳大

カップルや夫婦にとって便利なサービスやガジェットは年々増え、家事分担や予定調整など、ふたりの生活をスムーズにする活用方法も広まってきました。
ただ、急に二人の間に新しいシステムを導入するのも難しい…! この連載では、表に出づらい、二人の問題にそもそもどう向き合って解決したか、までの流れを語っていただきます。

自己中心的な男は結婚できるのか?

松田佳大さんのお話

松田佳大さんのお話 Weiqi Xiong

「有名になりたい。」
「お金持ちになりたい。」
「それさえ叶えば、30歳で死んだっていい。」

24歳の頃、当時付き合っていた彼女に「将来はどうしていくの?」と聞かれたことがあった。この回答は、そのとき僕が心の中で思っていたこと……ではない。実際に彼女の目をまっすぐ見て答えた僕の格言である。恥ずかしすぎて今すぐ闇に葬りたい。

今なら、このセリフがどれだけ彼女をがっかりさせたかが分かる。どこにも彼女との未来を感じられないからだ。有名になったりお金を稼ぐことはまだ良いとしよう。問題なのはその次。目の前の彼氏は約5年後に「死んでもいい」などと言っている。

きっと僕はへらへらしながら話していたと思う。容易に想像がつく。僕はそれほど、人の気持ちを大切にできない人間だった。いや、人の幸せよりも自分の幸せを大切にしたい人間だった。

当時の彼女、本当にごめん。
そして、結婚してくれてありがとう。
妻への感謝を込めて、この記事を書いてみようと思う。

僕の強みは「自己中心的だ」と自覚していること

僕たちは結婚した。
それと同時に、新たな生命が芽生えた。

幸せなニュースとともにスタートした新婚生活。転職したてでお金がなかった僕たちは(これも彼女に相談はしてなかった……)、日当たりの悪い狭い1Kで暮らしはじめた。

使い古したシングルベッドで眠る、お腹の膨らんだ妻。
友だちが1人もいない僕の地元・大阪に、身一つで移住してきた妻。
徹夜続きな僕と、話し相手がいない妻。

ちょっと考えればすぐわかる。妻にとっての新婚生活はちっとも「最高だ」と言えるものではなかった。勝手に転職を決めて、大阪に連れてきて、遅くまで働き、彼女を家に放置してしまっていた。僕は相変わらずだった。それでも妻は「毎日楽しいよ」と言いながら、当時リリースされたばかりのポケモンGOをしながらケラケラと笑ってくれていた。

しかしある日、仕事が終わって家に帰り、そろりそろりと妻が眠っているベッドに入ろうとしたとき。妻の異変に気がついた。
彼女は布団で顔を隠していたのだ、声をひそめて。でもちょっとだけ鼻をすする音が聞こえてくる。これは「妻の涙のサイン」だ。

「何かしちゃったか……?」と頭をフル回転させるが、まったく思い当たるフシがない。どうしよう、どうしようと声をかけてみるが、妻は「なんでもないよ」と言う。

僕はこの時にやっと気がついた。
僕は何も分かっていない。何も知らない。
妻の気持ちも、妻の悩みも。

「僕はあまりに自己中心的だ」とショックを受けた。そんな自分に嫌気がさした。

夢中で自分の人生をがむしゃらに生きていた僕は、この暗くて狭い1Kの部屋でようやく、妻を、お腹の子を、もっと幸せにしたいと強く想った。自己中心的な自分が嫌だった。

「想像力は未来だ」

偉そうに書いているが、先に言っておく。僕の根本は、おそらくあまり変わっていない。今でも自己中心的に夢を追いかけている。まだどこかで「自己中心的だからこそ輝ける」と思い込んでいるフシがある。
あんなに嫌悪した「自己中心さ」を完治することは難しい。

でも、人は「工夫すること」ができる。もっと良くなりたい、もっと大切にしたい、その気持ちさえあれば。きっとそんな工夫の積み重ねを「成長」と呼ぶのだろう。僕は、妻を泣かせたあの日から、成長したいと思うようになった。

それから、とにかく自分なりの工夫を試してみた。ご機嫌をとってみたり、率先立ってルールを決めてみたり。かえって気分を逆撫でしてしまい、おかずが一品減ってしまったこともあった。
妻はそんなものは求めてはいなかった。そして、確信した。僕たち夫婦にとって重要なのはルールじゃない。大切なのは「想像すること」だ。それこそが、最大の工夫であり成長だった。

たとえば、朝の通勤電車に乗ってるとき「今、保育園に送ってくれてる頃かなぁ」と想像する。夜に飲みに行くときは「今、子どもたちをバタバタ寝かしつけてくれてる頃かなぁ」と。そして家に帰って、食卓にラップされている夜食を見たときは「妻がどんな想いでこれを作ってくれたかなぁ?」と。すると自然に、僕の身体は妻のために行動しはじめる。早めに帰ろうと努力したり、洗濯物を畳んだり、キッチンを整えたり。

そりゃたまには「こっちだって仕事しているんだから!」とか「飲みに行くのだって未来の仕事のためだ!」と言いたくなることだってある。でも想像すると、言えなくなる。言えない。なぜならば、妻の夜食はいつも僕の体調を想像したメニューになっているからだ。そうした彼女の心配りにも気づくようになったことも成長なのかもしれない。

ルールを決めて上手くいくのであれば、それがベストだと思う。でもルールを決めても上手くいかない夫婦だっている。そんな夫婦にとって、「想像する」が選択肢の一つになれば嬉しい。何より、今すぐ無料ではじめられることが最高に魅力的だ。

この記事を書くことをきっかけに、妻におそるおそる「何か変わったことはある……?」と聞いてみた。すると「うーん、相手目線で考えるようになったことかな?」と言ってくれた。小学生の頃に「相手の立場になって行動をしよう!」とよく通信簿に書いてあったが、「それは想像することからはじまるんだよ」と早めに教えてほしかった。

そういえば、ドラえもんの映画でも「想像力は未来だ」と言っていた。「想像することをあきらめたときに破壊が生まれるんだ」と。どれだけ一緒に過ごす時間が少なくても、想像力さえあれば人と人は繋がれるのだと教えてくれた。
とにかく共感したのだが、もし僕の話にピンと来なかった人はぜひAmazon Primeで見てほしい。