Loading...

愛するパートナーに自分のドロドロをどうぶつけるのか問題/紫原明子

カップルや夫婦にとって便利なサービスやガジェットは年々増え、家事分担や予定調整など、ふたりの生活をスムーズにする活用方法も広まってきました。
ただ、急に二人の間に新しいシステムを導入するのも難しい…! この連載では、表に出づらい、二人の問題にそもそもどう向き合って解決したか、までの流れを語っていただきます。

いびつな自分を開示しあうこと

自分の気持ちをどうぶつけようか悩むカップルの画像 StockSnap

紫原明子さんのお話

私の現在のパートナーは私より18歳年上、趣味で読書会を主宰している元チーマーで、本業はリフォーム屋さんです。今から5年前に、共通の知人であるAV監督の二村ヒトシさんのご紹介で知り合いました。

初めて会った日、彼はタイトなシャツのボタンを3番目くらいまで大胆に開け胸元をちらりさせながら、真っ白な前歯を輝かせ爽やかに笑っていました。夜の六本木の雰囲気をまといながらも物腰は驚くほど柔らかで、混乱した私はその後2年ほど、彼のことをよく分からない人だなあと思っていました。
しかし知り合って3年目のあるとき、一緒にピナ・バウシュ ヴッパタール舞踊団のダンスを見に行くこととなったのですが、それがもう本当に素晴らしくて。奇しくもその日のダンスのテーマは「愛」だったんですが、終演後に居酒屋で愛のダンスについて語り合っていると、どんどん私の内なる愛まで高まってきまして、その日から約半月後に大人っぽい関係になりました。

付き合い始めてすぐに、私と彼が、案外似た者同士だったことが分かりました。周りからは友達が多そうと思われているけど誕生日は毎年孤独とか、誰かといないと寂しいけど誰かの用意してくれた場所には馴染めないとか。また、人間が“よく生きる”とはどういうことか、というイメージに大きなズレがなさそうなところには、付き合っていく上で大きな安心感があります。

何より私にも彼にも、ともに離婚経験があり、それぞれに二人ずつ、大切な子どもがいます。彼が離婚に至る過程で考えたことや、当時の状況なんかを聞くと、とても他人事とは思えません。
この人とならずっとやっていけると思った相手と、だんだんと思いが通じ合わなくなっていく。誰よりも信頼できた相手と、いつしか誰よりも疑い合う仲になってしまう。一体どうしてこういうことが起きるのだろうと、絶対に完成しないパズルに取り組む時間を、彼もまた、私と同じように長く過ごしてきたのだろうと思います。

離婚はできる限りの手を尽くした結果なので後悔はまったくないけれど、心の傷はたしかにあって。だから私達は今きっと、自分の大切な人に大切にされることや、意図したとおりに言葉が受け止められること、ありのままの自分が受け入れられることなど、一度は絶望して諦めたこともやっぱり現実に成立するのだと、ひとつひとつ確認しながら、過去の傷を癒やしているのだろうと思います。

「メンヘラ」みたいな言葉のせいか、最近は、恋愛で感情やエゴを表出させることが、あまりにもよろしくないものと思われがちです。たしかに恋愛の先に、結婚や子育てを見据えているのであれば、お互いに理性的でいられる方がいいのでしょう。でも、本来恋人って、とても社会には見せられないいびつな自分をお互いに開示して、受け入れ合って、だからこそ特別な存在になれるものなのではないかと私は思っていて、その上では、普段押し殺しているドロドロとしたものをあらわにして、ときにぶつけ合うことも必要なんだろうと思います。
私の場合、結婚や子育てが付随するパートナーシップはもう一度やってみたので、ものは試しってこともあって、今のパートナーとはできるだけ理性から遠いところで続けていけたらと思っているのです。

……が、しかし。とここでようやくこの連載のテーマとされている「ビフォーアフター」そのビフォーの部分に入るわけですが、恋人がいくら感情やエゴをむき出しにすべき相手と言っても、自分の気分のままサンドバッグにしていいなんてことではなく。自分の感情やエゴの中には当然、他人に委ねず、自分で抱えて、消化すべきこともあるはずなので、そのあたりの線引きの努力は、怠ってはいけないのでしょう。そしてそれができる人のことを“自立している人”というのだろうと思います。

しかし私は、彼と付き合いだした当初、これが全然ダメだったんです。まず、長いこと「妻」や「お母さん」をメインでやってきたせいか、そもそも自分の感情やエゴを正直に取り出すことができませんでした。で、意識して少しずつそれができるようになってくると、今度は、どれを彼にぶつけるべきで、どれが自分の問題かの線引きに困りました。
いくら感情やエゴをぶつけ合うと言っても、モヤモヤを手当たり次第ぶつけて、全部あなたがどうにかしてよ、なんていうのはさすがに子供っぽいことで。でも、ぶつけるべきことをぶつけないと、社会的で、理性的な、私の望んでいない関係になってしまいます。これは一体どうすれば……!と 悩んだときに出会ったのが、何を隠そう「な・つ・ひ・さ・お」チェックだったんです。

前後の連載記事