自分の問題か二人の問題か?冷静に考える

知らない人にはポカーンでしょうし、知っている人にも“一体なぜここで”とポカーンでしょう。「な・つ・ひ・さ・お」はそれぞれ、「な(悩み)・つ(疲れ)・ひ(暇)・さ(寂しさ)・お(お金・お腹がすいた・お薬を飲み忘れた)」を指します。
彼との関係で妙にモヤモヤする気がして、このモヤモヤをぶつけるべきかどうかと悩んだとき、この「な・つ・ひ・さ・お」のどれかが自分の中にないかどうかを、一度チェックしてみるのです。私の場合は、疲れや暇、空腹やお金の問題などが原因になっていたら、まずは極力自分でどうにかしてから、もう一度彼との関係を考えてみることにします。また、具体的な悩みや、どうにもできない寂しさが発見されたら、必要に応じて相手に伝えたり、伝えなかったりします。このチェックを使うことで、自分の問題と二人の問題を、少しだけ冷静に考えなおすことができるのです。

この便利な自己管理法「な・つ・ひ・さ・お」チェック、実は、北海道にある「べてるの家」という、精神障害を抱えた人たちの共同生活施設で考案されたものです。べてるの家は、向谷地生良さんというソーシャルワーカーの方を中心に、精神障害を抱えた人が、自分たちの症状を自分たち自身で研究していこうとする“当事者研究”が生まれた場所として知られています。
一見、精神的なものとみなされがちな不安や焦りにも、実は体の調子や生活の様子が密接に影響しているという、精神障害を抱えた当事者の方の研究と気付きから編み出されたのが、この「な・つ・ひ・さ・お」チェックということなのです。

私が言うのもなんですが、実際のところ、私のパートナーはとても徳の高い人なので、私が発する全ての球を総受けしてくれるのです。だから、私が何かに怒ったとして、またその怒りの背後に「空腹」というしょうもない個人的な事情が隠れていたとしても、彼はそんなしょうもない可能性を微塵も疑うことなく、きっとなにか自分に原因があるのだろうと、どこまでも深く自分の中にその答えを探そうとしてくれるのです。
そういうところ、本当に素敵なんだよな〜、最高! と思いつつ、そんな彼の器の大きさに甘えて過去数回、理不尽な怒りを浴びせてしまったので、他人事のようですが、あまりにも可哀想で胸が痛くなります。だから、このチェックで私自身が自分の調子に気をつけるようになって、彼が理不尽に可哀想な目に遭うことがなくなったので、本当によかったな、と思っています。

今、私が育んでいきたいと望んでいる関係性は決してカラッカラにドライなものではなく、かといって子供じゃないのでズブズブでウェットな先に何があるかなんてもうとっくに知っているわけです。
うまくいっている限り、心強さや絶大な快楽をもたらしてくれる一方で、うっかりバランスを欠けば、すぐに潰れ合って終わる。ぬくぬくとヒリヒリの美味しいとこ取りな状況を末永く楽しむためにも、「な・つ・ひ・さ・お」チェックでこまめな自己管理に励み、自立した人間同士の依存プレイを楽しんでいきたい所存です。

Text/紫原明子
初出:2019.05.30