人の愚痴を聞いて安心する人と身内のマジレス
つまり、愚痴を言わなければ、他に同じようなことで悩んでいる人がいるということも知れないし、共感を得ることもできないということだ。ただし「30過ぎてから乳首が取れやすくなった」など、愚痴ることで本当にオンリーワンかつナンバーワンであることが判明し、さらに孤独を深めることもあるが、大体自分如きが悩んでいることなど、他人がすでに悩みつくしていることだったりするのだ。
逆に自分が愚痴ることにより、他人が「自分だけじゃなかった」と気づくことも出来る、愚痴というのは迷惑なだけというわけではなく、それを聞いて安心する人もいるのである。
とは言え、愚痴を嫌う人がいるのも事実なので、言うなら、家族など近しい人間にした方が良い。よって「愚痴を言わない夫婦」より「愚痴を言いあえる夫婦」の方が良いとも言える。
しかし、身内ゆえに、何でもない愚痴が相手を不安にさせてしまうこともあるのだ。
例えば他人が「もうこんな会社辞めてやる」と言えば、すぐに「ヒュー♪」とヒップホップ育ちな口笛を吹けるし「無職最高!(金がないこと以外は)」と、ひたすら相手の言うことに同調すれば良いが、配偶者に「会社辞めたい」と言われたら、例え本気でなくても穏やかではいられない。
「えっ?」と言った後「無職は最高であり、私は出来るだけ長く無職でいたいですが、あなたにまで無職になられると困るので、再検討していただけないでしょうか」とマジレス育ちな返答をしてしまうと思う。
ただ聞き流して欲しくて言った愚痴に、家族がマジになってしまい不安そうな顔をしているというのは、すっきりするどころかますます暗澹たる気持ちになってしまうものだ。
愚痴を言うなら不興を買いづらい身内が良いが、逆に身内だとマジレス確率が上がってしまう。
よってパートナーに愚痴を言う時は「隣の席の奴がワキガ」など、直接相手に関係ないことにした方が良い。関係ないから安易に「わかる」「つらいよね」と同調ができるのだ。
だが、愚痴に対する正しい返答というのはマジレスではなくそういう、無関係だからこそ言える安い共感なのである。
Text/カレー沢薫
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