「彼氏ほしい〜」と鳴いていた黒歴史

何故同僚から夫を紹介されたかというと他でもない、私が「彼氏ほしい~」とか言ったからだ。
これは暇な若い女の口癖というか、そういう動物の鳴き声と言っても過言ではない。
当時23歳の私の口から何故そんな鳴き声が出たかというと「なんもなかったから」としか言いようがない。

幼少期にドラゴンボールの孫悟空に恋して以来、立体感のある男に興味があった期間が数年しかないという、繁殖能力が低すぎて絶滅する生物のような私だが、その数年がなかなかひどかった。

正確に言うと18歳から23歳という、世間一般的には「女の一番いい時」と言われがちな時期なのだが、何度思い返してもその時が一番ダメだった。眼帯と包帯を標準装備していた頃とは別ベクトルの「黒歴史」である。

むしろ邪気眼に目覚め、右腕に「アイツ」を封印していたあの頃は、1人で鏡の前でポーズをとったり、ノートに「俺が考えた最強の俺」の設定を書くだけで、大満足だったはずである。

その5年間はそれですらなかったのだ。

当時私は、今のような執筆業もしておらず、本当にただの薄給のOLだった。根がオタクなのは変わらないが、今のように血道をあげるような推しもいなかった。
しかも、クリエイターを目指しデザイン学校を卒業したのに、新卒で入った印刷会社で1回もデザインをやることなくメンをヘラッて退職し、1年以上ニートをしたあと事務職に就く、という完全に夢破れた後である。

なんもなかったのである。

だから「彼氏ほしい~」などという鳴き声が出せるのだ。
本気で彼氏が欲しい人はいい。だが私のこれは、彼氏が欲しかったというわけではない。「自分じゃ自分の暇すらつぶせないから誰かになんとかしてほしい」と思っていたに過ぎない。それが「彼氏」という言葉に置き換わっただけである。

現に、趣味や仕事に生きている友人からこんな鳴き声を聞いたことは終ぞない。
よく他のことで忙しく恋愛をする暇がない女を「男に相手にされない現実逃避」にしたがる者がいるが、全くそんなことはない。

何故ならそういう友人はいつ会っても「私より楽しそう」だったのだ。