常識とは何か? かぐや姫は“幸せ”の価値を追い求める

たけうちんぐ 高畑勲 朝倉あき 高良健吾 地井武男 宮本信子 高畑淳子 東宝 かぐや姫の物語 罪 罰 結婚 女 幸せ 人間らしさ ジブリ 翁 媼 姫 2013 畑事務所・GNDHDDTK

 一枚一枚が絵画のように繊細で美しく、静と動が混在する表現の数々にただただ唖然とする。今までに観たことのないアニメーションです。

 それは従来のジブリのスタジオでは実現できない技術を要し、新たなスタジオを開設してまで臨んだ革新的な手法。それでいて草木、動物、季節の描写が丁寧で、日本の風土に沿ったかぐや姫の心の変化を感じさせてくれます。そして“幸せ”とは何か。かぐや姫の選択が現代に生きる人の胸を打つのです。

 普通、5人の高貴な殿方にプロポーズされたら心が動くでしょう。これが“常識”の考え方。
だけど、かぐや姫の心の中にはいつだって貧しい村での暮らしがあり、捨丸ら仲間と遊んだ草木が生い茂る愛おしい場所がある。都に出てからも、庭であの頃の住処を再現し、記憶に思いを馳せる彼女の姿には切なくなります。

 翁は父親的存在であると同時に、とても俗っぽい考えを持つキャラクター。かぐや姫のツッコミ役みたいな立場で、最も現代人の感性に近いと言えます。そんな翁はかぐや姫に幸せになってほしいために、世間一般では“常識”とされる「結婚」を促す。だけど、その“常識”がかぐや姫の心を蝕みます。それは彼女が望む幸せではないから。求婚を断り続ける彼女は自責を繰り返してしまう。

「なぜ、私はその常識の中で人の心を踏みにじり、不自由な生活を強いられるのか?」

 それが月から下された“罰”であるならば、私たち地球人はすでに牢獄で生きているのかもしれません。
“常識”に囚われている限りは。

“人間らしさ”と“女らしさ”の檻の中で

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 かぐや姫は“女らしさ”の檻の中でもがき、罰を下されたように苦しむ。

「女はおしとやかにするべき」「女はこういう人と結婚するべき」「女は……」

 溢れる「べき」の数々。かぐや姫の決断は、世に蔓延るハウ・トゥへのアンチテーゼにも受け取れてしまう。 彼女は姫としての“しきたり”(お歯黒と高貴な衣)を嫌い、自由で人間らしい生き方を望んでいる。

 果たして、現代に生きる私たちは本当に“人間らしい”生活をしているのでしょうか?
毎日スマホでTwitterのタイムラインをチェックし、Facebookでいいね!をつけなきゃならない強迫観念にかられる。率直に思ったことを口にすると電子上の友達が減ってしまい、嫌われることを恐れて動き出せない。電子の光に包まれて、太陽の光を浴びていない。これが人間の暮らしと言えるのでしょうか。

 かぐや姫の気持ちは“花鳥風月”という言葉に寄り添っている。それは、“花”を愛し、桜舞い散る木の下で子どものようにはしゃぐ。“鳥”に恋し、自由に飛び回りたいと願う。“風景”に思いを馳せ、故郷の村を懐かしむ。そして“月”に憧れ、まだ見ぬ未来を恐れつつも、そこに向かう。
古き日本人の趣きを捉えた四字熟語に、かぐや姫の言う“人間らしさ”が詰まっているのかもしれません。