高畑監督が提示した“罪と罰”

 クライマックスは軽快な音楽とともに、かぐや姫だけでなく観る者の感情までさらっていく。それは涙で還元されなくても、溜息と手の震えとなって表面化される。
月の裏側を見たような、見たことのない世界。そして知られざる感情。その出会いに、胸の鼓動が応えるのです。

 ジブリはアニメーションの新境地を探る。『風立ちぬ』が空に憧れるならば、『かぐや姫の物語』はさらにその上、月に恋焦がれる。物語というものの限界を貫く挑戦は、日本最古の物語で行なう。その最前線にかぐや姫が立っているのです。

 高畑監督が提示した“罪と罰”。地球に降ろされたことが“罰”なのでしょうか?
かぐや姫が地球で知ったのは、その片隅にひっそりと光るもの。それは、捨丸らとの日々と、森の中を走った記憶と、皆で鍋をつつこうとした平凡な生活。とてつもなく愛おしい。
まるでそれが“罪”なほど美しい高貴な姫にとって、その日々は“罰”には程遠い唯一無二の幸せなのです。

 常識は時に人をがんじがらめにする。幸せはどこにあるのか、それを探すだけの自由は欲しいものです。この世に生を授かった限りは、花のように美しく、鳥のように自由で、風景に馴染み、月を眺めていたいもの。
人間らしさを今一度追い求め、他人が求める“女らしさ”を改めて考えてみましょう。そうするといつかはかぐや姫のように、何枚にも重ねられた衣を脱ぐことができるはずです。
そして、真っ黒な歯ではなく、真っ白な歯で笑えるように。

11月23日(祝)、全国ロードショー

監督:高畑勲
キャスト(声):朝倉あき、高良健吾、地井武男、宮本信子、高畑淳子
配給:東宝
2013年/日本映画/137分
URL:映画『かぐや姫の物語』公式サイト

Text/たけうちんぐ

Twitter、FacebookでAMのこぼれ話をチェック!