自分が一人きりとは限らない
また別の”自分”が何人も存在する

3人のアンヌ ホン・サンス イザベル・ユペール ユ・ジュンサン チョン・ユミ ユン・ヨジュン ムン・ソリ ビターズ・エンド

 アンヌは各エピソードで、それぞれファッションを変えて登場する。その都度、人間のタイプも違っている。
青いシャツの彼女はクールで、赤いワンピースでは情熱的で、緑のワンピースはちょっぴりセンチメンタル。それぞれが全くの別人として描かれている。

 だけど、なぜかどれも同じ女性に思えてくる。
それは名前がアンヌだからではなく、もっと深い意味で三人ともシンクロしていくのです。

 人は、日によって気分が変わる。身に纏う服によってタイプが変わる。
これは別人格と呼ばれるほどではないにしろ、一人の女性なら誰もが持ち合わせている多面性ではないだろうか。
決して、一人分の気持ちだけで生きていない。二人分、三人分の感情が、三人のアンヌに分散されているように感じる。

 ライフガードに対する印象も一つではない。
たった一つの角度から男性を見ることなんて、まずないでしょう。色んな角度から物事を見て、判断し、行動する。その一つが恋に発展する。
こういった描写には、ある種の恋愛の真髄が描かれており、ホン・サンスの鋭い人間観察眼が込められているように思えるのです。
女性は一筋縄ではいかない。三筋縄ではいくのかも。それは、誰もが心のどこかで自覚していることではないでしょうか。

人生と恋は繰り返すことができない

 人生と恋は繰り返すことができない。
生きていく中で決して許されない願望は、すべて映画によって叶えられる。

とても素朴で、ある意味地味な作品だけど、その分映画の可能性を静かな風景から感じさせることにグッと心を掴まれてしまう。

 三人のアンヌはそれぞれが出会うことができない。
無意識の中で拡散された人格は、お互いが出会うのではなく、それぞれが向かうべき愛=ライフガードに出会えばいいのです。

 今日のアンヌはどんな服を着て、どんな気持ちで海辺を歩くのだろう。
それは、観る人の心が決めるのかも知れません。

6月15日(土)より、シネマート新宿ほか全国順次ロードショー!

監督・脚本:ホン・サンス
キャスト:イザベル・ユペール、ユ・ジュンサン、チョン・ユミ、ユン・ヨジュン、ムン・ソリ
配給:ビターズ・エンド
原題:In Another Country/2012年/韓国映画/89分
URL:映画『3人のアンヌ』公式サイト

Text/たけうちんぐ