今までに観たことがない水中のラブシーン

「シェイブ・オブ・ウォーター」宣伝画像③ 2017 Twentieth Century Fox

 イライザと不思議な生き物のロマンスを執拗かつ残忍に追い詰める、エリート軍人・ストリックランドが単なる悪役然ではなく、自身の名誉にかけて任務を遂行しようとする悲哀が描かれている。彼は二人の“許されない愛”を炎上させてバッシングに加担するような世間の声であり、ファンタジーを脅かす現実の象徴でもある。

 言葉を発せられないイライザの世界を表すように、愛し合う二人は水の中を漂うことですべての音が吸い込まれ、ゆったりと動く。そのスローモーションが幻想的で、まったく奇怪に見えずロマンチックに映し出される。今までに観たことがないラブシーンに思わず息を呑む。

 クラシック映画を観ているような格調高いミュージカルシーンがある一方で、現代だから実現できる表現力豊かな不思議な生きものの造形が景色に溶け込んでいる。
1962年当時、アメリカはソ連との核戦争の恐怖と不安に陥り、人種差別や不平等が蔓延していた。虐げられ、拒まれて、罵られる。でも、そんな時代でも愛は芽生える。それも人間同士でなくても、愛し合うことはできるのだ。

 どのような状況であっても支え合う存在がいれば、世界は美しく輝く。どの時代においても希望を見出せる、歴史に名を残す重厚なラブストーリーに仕上がっている。
 
 今から50年以上前、イライザ含めて多くの人々が夢見ていた未来を私たちが生きている。あの頃世間の隅に追いやられていたマイノリティの人々も、身動きのできない水面から出てこられているように思う。

 今だからこそ描けるラブストーリーは、今観ないといけない。今後数十年に渡り、多くの人々に触れてもらいたい物語である。

ストーリー

 1962年、冷戦時代。一階が映画館という風変わりなアパートに一人で暮らすイライザ(サリー・ホーキンス)は、幼い頃のトラウマにより声が出せない。アメリカ政府の機密機関である“航空宇宙研究センター”で清掃員として働いている。

 ある日、ものものしい警備のもと不思議な生き物の“彼”(ダグ・ジョーンズ)が運びこまれてくる。エリート軍人・ストリックランド(マイケル・シャノン)に虐待され、生体解剖をされる予定である。掃除の合間に“彼”を盗み見たイライザは、その奇妙でありながら神々しい姿に一目で心を奪われる。
 
 手話で心を通わせて、ダンスのステップを教えることで互いに愛情が芽生え、単調だったイライザの生活が鮮やかに彩り始める。やがてイライザは、“彼”を研究所から逃す計画を立てる――。

3月1日(木)、全国ロードショー

監督:ギレルモ・デル・トロ
キャスト:サリー・ホーキンス、マイケル・シャノン、リチャード・ジェンキンス、ダグ・ジョーンズ、マイケル・スタールバーグ、オクタヴィア・スペンサー
配給:20世紀フォックス映画
原題:THE SHAPE OF WATER/2017年/アメリカ映画/124分
URL:『シェイプ・オブ・ウォーター』公式サイト

Text/たけうちんぐ

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