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  • 2018.02.01

90年代の若者のリアルは、現代にどう響くのか?岡崎京子の伝説的コミック『リバーズ・エッジ』

女子高生のハルナは、ゲイでいじめられっ子の山田に唯一心を開かれている。ある日、「“宝物”がある」と山田に連れて行かれた夜の河原で〈死体〉に遭遇する——。岡崎京子の同名漫画を行定勲監督が映画化。

リバースエッジレビュー
©2018映画「リバーズ・エッジ」製作委員会/岡崎京子・宝島社

 あんなに生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされていたのに、どうして今平然と生きられているのだろう。
青春がただ単に輝かしく、甘酸っぱいものであったら、この作品は全くと必要とされない。遠い過去をノスタルジックに浸るものであれば、わざわざ現代で作る意味がない。
なのに、どうして今? ここに、その答えが見つかるかも知れない。

 1990年代の若者の心の歪み、感情の揺らぎを描いた岡崎京子の同名漫画を原作に文『ナラタージュ』の行定勲監督が映画化。
二階堂ふみ、吉沢亮、上杉柊平、SUMIRE、土居志央梨、森川葵といった俳優陣が名を連ねる。主題歌を岡崎京子と公私ともに深い絆を持つ小沢健二が書き下ろしていることで、「あの時代は何だったのか?」のアンサーにより近づいている。

「食ったら吐く」

リバースエッジレビュー
©2018映画「リバーズ・エッジ」製作委員会/岡崎京子・宝島社

 表情を失ったように生きているハルナ、ゲイであることを隠して街で売春する山田、摂食障害で売れっ子モデルのこずえ、暴力と性欲に翻弄される観音崎、観音崎とセックスに明け暮れるルミ、山田を一途に愛することで自分を保つカンナ――。

 彼らはまるで空っぽの器を引きずるように、浮つきながら辺り一面に傷を付けていく。そんな空虚な毎日をより強い閉塞感で締め付ける、当時のテレビの画面比率を彷彿とするスタンダードサイズ。視界の狭さや先行きの見えない若者たちの不安感を漂わせている。
 皆、こずえのように「食ったら吐く」のだ。欲望を満たしても、喜びはまた一瞬で消え去っていく。そしてまた欲を重ねていき、精液と食べ物はやがて暴力と衝動で血と涙にすり替わっていく。

「ウゴウゴルーガ」「元フリッパーズの」「地球温暖化問題」など、当時を生きた人々なら手に取るように思い出せるキーワードが随所に散りばめられ、時代性をより明確にさせる。

若者たちは決断を迫られている

リバースエッジレビュー
©2018映画「リバーズ・エッジ」製作委員会/岡崎京子・宝島社

 原作にはないインタビューシーンが各所に挿入され、本作が2010年代に作られた意図がより明確に示される。
不器用なカメラワークでセリフらしくない生々しい声が収められ、登場人物の胸中が語られるような、いかにも狙ったものではない。物語とはまた別の切り取り方で自然体な姿がただひたすら映し出され、過去と現在を繋げる役割を果たしている。そこから大人になる姿が想像できるような、1990年代に青春を過ごした人々への写し鏡にも思える。

 10代で生きづらさに思い悩み、屋上から飛び降り、線路に飛び込み、首を吊るニュースが後を絶たない。そのたびに、大人になってしまった者たちは「決断が早すぎる」と嘆く。でも、若者たちは決断を迫られているのだ。実感の湧かない生と、遠くにあるはずの死。それを無理矢理そばに置くことで、息苦しく狭められた視野の中で呼吸ができている。

 90年代の若者のリアルが、2010年代の若者にどう響くのか。
それは決して大人には分からない。
文化も生活環境もあらゆるものが大きく変わっても、20年の時を経て変わらないものは何なのか。
ハルナがうっすら浮かべる笑顔から、それが感じ取れるかも知れない。

ストーリー

 ゲイでいじめられっ子の山田(吉沢亮)は、ハルナ(二階堂ふみ)にだけ心を許していた。ある日、ハルナは山田に夜の河原に誘われて、山田にとって“宝物”の放置された死体を見せられる。
「これを見ると勇気が出るんだ」と言う山田に絶句するハルナだが、その秘密を知るモデルのこずえ(SUMIRE)とともに特異な友情で結ばれていく。

 山田に一途に想いを寄せるカンナ(森川葵)、観音崎(上杉柊平)と身体を重ね続けるルミ(土居志央梨)――それぞれの満たされない想いが交錯する中、ハルナは「新しい死体を見つけた」と山田から報告を受ける。


2月16日(金)、全国ロードショー

監督:行定勲
原作:岡崎京子
キャスト:二階堂ふみ、吉沢亮、上杉柊平、SUMIRE、土居志央梨、森川葵
配給:キノフィルムズ
2018年/日本映画/118分
URL:『リバーズ・エッジ』公式サイト

前売券

( c )2018映画「リバーズ・エッジ」製作委員会/岡崎京子・宝島社


Text/たけうちんぐ

次回は <今だからこそ描けるラブストーリーは、今観ないといけない。アカデミー賞最有力候補『シェイプ・オブ・ウォーター』>です。
アメリカ政府の機密機関で清掃員として働くイライザ(サリー・ホーキンス)は、密かに運び込まれた不思議な生きものと出会う。いつしか二人は種族間を越えた愛で結ばれていく——。アカデミー賞最有力候補のギレルモ・デル・トロ監督最新作。

ライタープロフィール

たけうちんぐ
ライター/映像作家
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