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  • 2017.11.03

“常識を覆す”菅田将暉の真に迫る漫才シーン!又吉直樹の芥川賞『火花』

売れない芸人・徳永は営業先の熱海で常識破りの漫才をする先輩芸人・神谷に出会い、その人間性と天才的な発想に惹かれて弟子入りする。だが、二人はその後も全く芽が出ず芸人生活を危ぶまれていく――。

「火花」宣伝画像①
©2017『火花』製作委員会

 結成して僅かで成功を収める芸人もいれば、何年挑んでも風呂なしアパートから出られずに夜勤のバイトを続けている芸人もいる。
新人の芸人・にゃんこスターが決勝に進出した『キングオブコント2017』が記憶に新しい。誰かが笑えば誰かが泣くのは、何も芸人だけの話ではない。
人を相手にする仕事や生活の中で、互いに無いものを補完し合うように過ごす徳永と神谷の姿に胸を打つ。それは漫才に限らず、人と人とが支え合う上で生まれる“ボケとツッコミ”の関係が描かれているからだろう。

 お笑いコンビ・ピースの又吉直樹の芥川賞受賞作『火花』を、菅田将暉・桐谷健太主演で映画化した青春ドラマ。
監督はお笑い界で又吉の先輩芸人である一方で、『板尾創路の脱獄王』『月光ノ仮面』など映画作品を手がける板尾創路。又吉と同じく独特な言語感覚の持ち主であり、コンビでは同じくボケ担当の原作/監督の関係性で描かれるからこそ、ボケ担当の徳永の視点の説得力がより一層増している。

菅田将暉の真に迫る“常識を覆す”漫才

「火花」宣伝画像②
©2017『火花』製作委員会

 友人が仕事仲間に変わる時、諦めるか諦めないかの瀬戸際に立たされる時。
夢を抱いた時点で、誰もが茨の道に進み始めるのだろう。中学時代の友人・山下をツッコミに、自らをボケに選んだ徳永(菅田将暉)もまた、打ち上がる花火のような煌めきを求めてその一瞬に命を注ぎ続ける。

 先輩芸人・神谷(桐谷健太)との衝撃的な出会いから、相変わらず売れなくても徳永の生活が少しずつ輝き出す。“常識を覆す”ものに憧れる徳永は、神谷の奇抜な言動によって、普段はボケ担当なのにツッコミの立場になる。
お笑いの才能はあるけど生活の才能がまるで無い神谷に対し、時折先輩と後輩の壁を越えてツッコむ。希望も絶望も共にする関係性が、観客不在の場面でもスクリーンの前の観客を笑わせ、心を打たせてくれる。

 終盤の“常識を覆す”漫才のシーンは涙も汗も唾も飛び散り、すべてを放出するように叫び続ける菅田将暉の演技は真に迫っている。
幼少時代からお笑いに憧れていた彼だからこそ、リスペクトを込めて一人の売れなかった芸人の魂を宿らせる姿に涙で応えてしまう。

人は一人では生きられない

「火花」宣伝画像③
©2017『火花』製作委員会

 徳永も神谷も残酷なまでに新人たちに座を奪われ、仕事もお金も得られず芸人生活を窮めていく。
夢追い人なら、やがて決断する時が来る。そこにあるのは蝉の鳴き声のように、星が消え去る時の一瞬の光のように、大きな声と眩い光で放たれる煌めきである。

 ボケるだけだとただのバカになる。ツッコミ待ちの人生では何も始まらない。自分の良さや悪さに気付かなくても、それを教えてくれるのは他人だったりする。「それは違うやろ」「何考えてんねん」と言ってくれて、本来向かっていた道へ正してくれる。そんな徳永と神谷のような“ボケとツッコミ”の関係性は、漫才師に限らず誰しもがなり得ることだ。

 人は一人では生きられない。それを10年間駆け抜けても全く芽が出なかった者たちの、“真の栄誉”を通して描かれる。
売れることが一番であっても、それが全てではない。栄光の陰で人知れず確かに輝き、その光はきっと死ぬまで絶えないことを物語っている。

 エンディングを飾るのは、ビートたけしの『浅草キッド』の菅田将暉と桐谷健太によるカバー。
ビートたけし、板尾創路、又吉直樹という三世代のお笑い芸人の血筋が一つに繋がり、夢を見続ける者への応援歌でありながら、夢を諦めた者への鎮魂歌のようにも聴こえる。
それはダサくても情けなくても、がむしゃらに夢を追いかけることを肯定してくれているかのようだ。

ストーリー

 お笑いコンビ・スパークスとしてデビューをした徳永(菅田将暉)は一向に売れる気配がなく、悶々とした日々を過ごしていた。

 そんなある日、営業で出向いた熱海の花火大会で先輩芸人・神谷(桐谷健太)の型破りな“常識を覆す”漫才に衝撃を受け、弟子入りをする。

 互いに全く芽が出なくても、神谷の同居人・真樹(木村文乃)と三人でボケてツッコむ日々が賑やかで、徳永の生活は輝き出した。
だが、そんな日々は長くは続かなかった――。

11月23日(木)、全国東宝系にてロードショー

監督:板尾創路
原作:又吉直樹『火花』(文藝春秋 刊)
キャスト: 菅田将暉、桐谷健太 他
主題歌:菅田将暉×桐谷健太「浅草キッド」(作詞・作曲:ビートたけし)
配給:東宝
2017年/日本映画/121分
URL:『火花』公式サイト


Text/たけうちんぐ

次回は<“恋人と元彼の間で揺れる・・・ありふれた恋愛映画の先を描く魚喃キリコ原作『南瓜とマヨネーズ』>です。
ツチダは恋人の夢を支えるためにキャバクラで生活費を稼ぐ中、元恋人に再会し、彼にのめり込んでいく——。魚喃キリコの代表作を臼田あさ美×太賀で映画化。

ライタープロフィール

たけうちんぐ
ライター/映像作家
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