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  • 2018.02.15

今だからこそ描けるラブストーリーは、今観ないといけない。アカデミー賞最有力候補『シェイプ・オブ・ウォーター』

アメリカ政府の機密機関で清掃員として働くイライザ(サリー・ホーキンス)は、密かに運び込まれた不思議な生きものと出会う。いつしか二人は種族間を越えた愛で結ばれていく——。アカデミー賞最有力候補のギレルモ・デル・トロ監督最新作。

「シェイブ・オブ・ウォーター」宣伝画像①
©2017 Twentieth Century Fox

 人種を越えた愛、国境を超えた愛は今まで多くの作品で描かれてきた。
それどころではない。これは種族を越えた愛だ。人間の女性と、水の中で暮らす不思議な生き物のラブストーリーである。一見ブッ飛んでいるように思えるが、あまりのピュアな物語に観終わった後は数時間前の印象を吹っ飛ばす。

 アカデミー賞最有力候補であることが納得できる。あらゆるスキャンダルが飛び交う昨今、類を見ないダントツの“許されない愛”を貫き通す二人の物語は、今のハリウッドが絶対に無視をしてはいけないものだ。

 『パンズ・ラビリンス』『パシフィック・リム』など独自の世界観を世に知らしめてきたギレルモ・デル・トロ監督最新作。ホラーからファンタジーからアクションまで、幅広い表現で魅了し続ける彼が今回挑んだのは、その全ての要素が含まれたラブストーリー。
『ブルー・ジャスミン』でアカデミー賞にノミネートされたサリー・ホーキンスが主人公・イライザ役を務める。その相手となる不思議な生き物をダグ・ジョーンズ、二人を追い詰めるエリート軍人をマイケル・シャノン、『ドリーム』の好演が記憶に新しいオクタヴィア・スペンサーがイライザの友人を演じ、デル・トロ監督の集大成と呼べる彼自身の最高傑作に魅力的なキャストが集まった。

彼は“孤独”の中の救世主

「シェイブ・オブ・ウォーター」宣伝画像②
©2017 Twentieth Century Fox

 水の中で生きる水生の生き物、いわば半魚人と愛し合うなんてブッ飛んでる!
 ……と、第一印象がファンタジーであったのに、観終わってみるとまるで古典名作のように何十年の昔から語り継がれてきたラブストーリーに触れたような、深い哀愁に包まれてしまう。

 種族を超えた愛でも『美女と野獣』のようなロマンスではなく、不思議な生き物だけでなくヒロインも社会から隅に追いやられている。イライザは声を出せない。障害者だけでなく、黒人、ゲイといった米ソ冷戦時代のマイノリティの人々に光が照らされ、重いテーマを孕みながらコメディ色が強く、ユーモア溢れる描写に驚く。何度も笑いを誘うシーンが飛び込んでくる。

 イライザの“孤独”が基盤となっていて、一人で暮らす女性の日常が丁寧に切り取られている。心の拠り所は隣の家に住む売れない老人画家・ジャイルズ。二人とも身寄りもなく、互いの孤独を埋め合う中で突如現れた不思議な生き物は、イライザの暗闇に火を灯す救世主のように描かれている。
 
 多くのファンタジー作品が触れようとしない、「半魚人とどうやってアレするの?」――そんな下世話な疑問も、わざわざ解決してくれる。しかもゼルダとのガールズトークで。一見どうでもいいように思えるが、不思議な生き物を“不思議”で終わらせないよう避けずに描いたデル・トロ監督は信用できる。

今までに観たことがない水中のラブシーン

「シェイブ・オブ・ウォーター」宣伝画像③
©2017 Twentieth Century Fox

 イライザと不思議な生き物のロマンスを執拗かつ残忍に追い詰める、エリート軍人・ストリックランドが単なる悪役然ではなく、自身の名誉にかけて任務を遂行しようとする悲哀が描かれている。彼は二人の“許されない愛”を炎上させてバッシングに加担するような世間の声であり、ファンタジーを脅かす現実の象徴でもある。

 言葉を発せられないイライザの世界を表すように、愛し合う二人は水の中を漂うことですべての音が吸い込まれ、ゆったりと動く。そのスローモーションが幻想的で、まったく奇怪に見えずロマンチックに映し出される。今までに観たことがないラブシーンに思わず息を呑む。

 クラシック映画を観ているような格調高いミュージカルシーンがある一方で、現代だから実現できる表現力豊かな不思議な生きものの造形が景色に溶け込んでいる。
1962年当時、アメリカはソ連との核戦争の恐怖と不安に陥り、人種差別や不平等が蔓延していた。虐げられ、拒まれて、罵られる。でも、そんな時代でも愛は芽生える。それも人間同士でなくても、愛し合うことはできるのだ。

 どのような状況であっても支え合う存在がいれば、世界は美しく輝く。どの時代においても希望を見出せる、歴史に名を残す重厚なラブストーリーに仕上がっている。
 
 今から50年以上前、イライザ含めて多くの人々が夢見ていた未来を私たちが生きている。あの頃世間の隅に追いやられていたマイノリティの人々も、身動きのできない水面から出てこられているように思う。

 今だからこそ描けるラブストーリーは、今観ないといけない。今後数十年に渡り、多くの人々に触れてもらいたい物語である。

ストーリー

 1962年、冷戦時代。一階が映画館という風変わりなアパートに一人で暮らすイライザ(サリー・ホーキンス)は、幼い頃のトラウマにより声が出せない。アメリカ政府の機密機関である“航空宇宙研究センター”で清掃員として働いている。

 ある日、ものものしい警備のもと不思議な生き物の“彼”(ダグ・ジョーンズ)が運びこまれてくる。エリート軍人・ストリックランド(マイケル・シャノン)に虐待され、生体解剖をされる予定である。掃除の合間に“彼”を盗み見たイライザは、その奇妙でありながら神々しい姿に一目で心を奪われる。
 
 手話で心を通わせて、ダンスのステップを教えることで互いに愛情が芽生え、単調だったイライザの生活が鮮やかに彩り始める。やがてイライザは、“彼”を研究所から逃す計画を立てる――。

3月1日(木)、全国ロードショー

監督:ギレルモ・デル・トロ
キャスト:サリー・ホーキンス、マイケル・シャノン、リチャード・ジェンキンス、ダグ・ジョーンズ、マイケル・スタールバーグ、オクタヴィア・スペンサー
配給:20世紀フォックス映画
原題:THE SHAPE OF WATER/2017年/アメリカ映画/124分
URL:『シェイプ・オブ・ウォーター』公式サイト

Text/たけうちんぐ

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たけうちんぐ
ライター/映像作家
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