おひとりさま、生まれ育った街から新たな居場所へ -えぇ、東京で消耗していました

 「東京でまだ消耗しているの?」というタイトルのもと、移住先の高知での生活を伝えながら、都市生活の疲弊について論じているブロガー・イケダハヤト氏。その主張に賛否両論はありながらも、大都市に住んでいる人であれば皆、少なからず考えさせられることは多いかもしれません。
東京生まれ、東京育ちで独身、フリーのライターとして独立以降は、ふだんの生活も全方位的おひとりさまライフに突入した小野好美さんもその一人でした。

私がイケハヤ氏と高知でビールを乾杯するに至るまで

高知に移住した小野好美さんの画像

 2014年8月某日。気づくと私は、東京から800キロほど離れた高知県のとある川原で、ビールを掲げ乾杯していました。紙コップを合わせているのは、有名ブロガーのイケダハヤト氏とそのご家族。空はどこまでも青く清々しく、ビールはどこまでも冷たい。それに、高知のローカルフードは驚くほど新鮮な食材が使われており、何を食べてもハズレがない。そこにいる全員が、当然のこととして、心からの笑顔を浮かべていた。

 …どうして私は、イケハヤ一家と真っ昼間から野外で乾杯しているんでしたっけ。そもそもなんで高知県?

 はじめまして。おひとりさま系ライター小野好美と申します。“おひとりさまの居場所”特集ということで、僭越ながら私が昨年、思い切って30年以上住み慣れた東京を離れ、居場所をガラッと変えたお話をさせていただきたく存じます。よろしくお願いいたします!

未婚女性的2大ハードルが到来 全方位的おひとりさまライフに

 東京生まれ・東京育ちの私は、別段何の疑問も抱かず、それまでずっと東京で暮らし続けてきて、これからもずっとそうするものだと思っていました。しかし、震災の少し前に「そういうもんだ」が一変。突如として「なんか…自分のなかに自然が足りない気がするッ」という衝動が生まれたのです。

 その何年か前から「冷えとり」やヨガに取り組んで小さな頃から弱っちかった体が少しずつ生命力を取り戻したり、瞑想して内観する時間をとるようになったことで、身体の声が聞こえるようになったのかもしれません。とにもかくにも内側から湧き上がってきた自身の“野生”に戸惑うばかりでした。

 それでも東京の外に飛び出す勇気もなく、違和感を持ちつつも相変らずの東京的生活を送っていましたが、31歳の頃に「会社を辞めてフリーに転向」「一緒に暮らしていた男と別れる」という未婚女性的2大ハードルがほぼ同時にわが身にやってきました。これによって仕事もプライベートも一人でいるのがデフォルトに。全方位的おひとりさまライフここに極まれり、というわけです。

自分で選んだフリーの道だけど…
“喜び”よりも“不安”が行動の原動力になる矛盾

 やがて、心の奥底で感じ続けていた“自然が足りない”という思いに加えて、今度はお金の不安が頭をもたげてきました。もともと宵越しの金は持たないというか持てない、完全江戸っ子仕様の私は、充分な貯金もないのに不安定なフリー稼業を始めてしまったのです。

 冷静に考えると危険すぎる賭けですが「こうしたい」と思ったら止められないし、「死にはしないさ」とアバウトすぎるどんぶり勘定野郎な私は、実際に社会の大海にたった一人、小さな船で漕ぎだしてみてから「待って待って、これ危険すぎ、船が粗末すぎ」と慌てる体たらく。
実際には、ありがたいことにフリー一年目にしては充分に稼げていたのですが、いかんせん貯められない女である私は稼いだら稼いだだけ使い、ちょっとでも収入が少ない月があるとその時点でピンチに陥るという一番フリーになってはいけないタイプだったのです。

 それまでは、もし自分のお財布が多少心もとなくなっても、彼氏が何とかしてくれましたし、風邪をひいて1日や2日、会社を休んでも給料は支払われました。それに、お金の面だけでなく、彼氏がいれば体調が悪くても家事を協力し合ったり、心が不安にさいなまれていても元気づけられたり、といつの間にか切り抜けることができる。そうした恵まれた状況に慣れきっていて、二重、三重の意味でフリーになった時のリスクが具体的に描けていなかったのです…って失ってから気づいたモノの価値が大きすぎるッ。

 おひとりさまもフリーランスも、どちらも自分で選んだ道。それなのに、いつの間にかその“喜び”よりも、お金や将来への“不安”が行動の原動力になっているという矛盾。せっかくの好きな仕事も、お金のためにキャパ以上に抱え込み、ムリヤリこなしている始末です。
だいたい東京は家賃が高すぎるんじゃー、と自分の読みの甘さを棚上げしてしっかり責任転嫁しつつ、完全に「いま東京で消耗しています」状態に。不安にガッチリフォーカスが合うと、せっかく新しい仕事の話が舞い込んでも手を挙げる気力が湧かなかったりして、ますます悪循環の四面楚歌なのでした。