ファンタジーとサスペンスの狭間で。
ルイは転落した海の生き物たちと心を通わせ、クラゲや深海魚などは地上の束縛からの解放のモチーフであるかのごとく、美しくファンタジックに盛り込まれる。
事の真相を大人たちが究明していくなかで明らかになる過去。崖から転落後、昏睡状態に陥っているルイという現在。そして、生きるか死ぬかの瀬戸際の曖昧な未来。
それぞれを何度も行き来し、またそれぞれの境界線が不確かで、そこにさらに“妄想”という少年特有の限りないイメージが、隠された謎をより複雑化させる。
両親とともに行った水族館の記憶から、ルイの心理描写に神秘的な表現が書き加えられる。単なるサスペンスに収まらない要素が、本作のスケールをグッと拡げている。
愛ゆえに憎しみを持ち、またそれが人と人同士で切っても切れない問題であること。その提示するテーマが最終的に温かな描写で着地し、豊かな色合いで彩られる。
パスカルが驚愕の真実に辿り着いた時、ルイの運命はいかに――。
鑑賞後は、幾つも張り巡らされた伏線を振り返るためもう一回見返したくなる。
サスペンスでありながら、どこか心が満たされるエンディング。果たして、ルイに10番目の人生はやって来るのだろうか。
ストーリー
生まれてから毎年死にかける事故に遭い続ける少年・ルイ(エイダン・ロングワース)は、9歳の誕生日に海辺の崖から転落して奇跡的に命は助かるが、昏睡状態に陥ってしまう。
担当医・パスカル(ジェイミー・ドーナン)が彼を目覚めさそうと奔走する一方、ルイを取り巻く大人たちの間で不可解な出来事が起き続ける。
ルイの父・ピーター(アーロン・ポール)は行方不明になり、母・ナタリー(サラ・ガドン)のもとには差出人不明の警告文が届き、その真相を追うパスカルもまた不気味な悪夢に悩まされる――。
1月20日(土)、新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー
監督:アレクサンドル・アジャ
脚本:マックス・ミンゲラ
キャスト:ジェイミー・ドーナン、サラ・ガドン、エイダン・ロングワース、アーロン・ポール
配給:松竹
原題:THE NINTH LIFE OF LOUIS DRAX/2015年/カナダ=イギリス映画/108分
URL:『ルイの9番目の人生』公式サイト
Text/たけうちんぐ
次回は<葬儀での涙の量が供養になるのか?齊藤工の初監督作品『blank13』>です。
家族を捨てて蒸発した“ダメ親父”の葬儀で、13年間会うことのなかった息子たちが知らない、父の様々な側面が浮かび上がる——。齊藤工の長編初監督作品。
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