これまでの海外旅行に費やした300万円、後悔してる?人生を豊かにするお金の使い方『DIE WITH ZERO』

by Annie Spratt

まだコロナ禍の気配がなかった2019年、それまで行った19カ国分の海外旅行にかかった金額を、ざっと計算してみたことがある。20歳の頃に行った台湾から、このハンドルネームの由来になったチェコ、それからイスラエルにバリ島にアルゼンチンに……かかったお値段、約300万円。19カ国行ったにしては安いのか、あるいは妥当な金額なのかはよくわからないが、合計してみるとさすがになかなかの金額である。

しかしこの約300万円を、使わずに貯金していれば! とは、私はまったく思わなかった。もちろん2023年の今も思っていない。むしろ、23歳くらいの頃の私にとって50万円なんて大金どころの話じゃないくらいの大金だったのに、よくぞイタリアとフランスに行くために使ってくれたな〜と、タイムマシンに乗って当時の自分を褒めに行きたい。

先が見えない不景気な世の中、たいしたキャリアもスキルもない私は道を間違えると経済的に困窮する恐れが普通にあると自分で思っているが、たとえ毎日納豆ごはんしか食べられない生活になったって、「あの300万円が戻ってくれば」とは考えないだろう。300万円使って行った海外旅行は1つ1つの思い出が心の深いところに刺さっていて、その後の私の人生をずっと照らしてくれているような感覚がある。

さて、今回語らせてほしいのは珍しくビジネス書である。ビル・パーキンスの『DIE WITH ZERO』は「お金の貯め方」ではなく「使い切り方」に焦点を当て、自分が死ぬときに資産がゼロになるように生きよう、と説く。 

人生を豊かにする(お金の)9つのルール

著者は、人生を豊かにするためには9つのルールがあると言う。

1つは、「今しかできないこと」にお金を投資すること。
2つは、一刻も早く経験にお金を使うこと。
3つは、死ぬときに資産がゼロになるように生きること。
4つは、人生最後の日を意識すること。
5つは、子供がいる人は死後に資産を相続させるのではなく、自分が生きているうちに与えてしまうこと(あくまで自分が死ぬときの資産はゼロにする)。
6つは、年齢に合わせて「金、健康、時間」を最適化すること。
7つは、やりたいことの賞味期限を意識すること。
8つは、45〜60歳で資産を取り崩し始めるべきだということ。
そして最後の9つは、大胆にリスクをとること。

目次に沿って9つのルールを語れば、本に書いてあることはだいたいわかってもらえるのではないかと思う。

私はもちろん、この著者の主張に1から10まで賛同しているわけではない。「老後って実はそんなにお金がかからない、たいていの人は死ぬまでに資産を使いきれない、何も考えずにただ貯めるのではなくて適切にお金を使おう」というのが本の主旨なわけだが、「そんなふうに考えられるのは一部のお金持ちだけでは?」と、ちょっとだけ思ってしまった。私自身に関して言えば、人生で使いきれないほどの額は普通に暮らしていたら稼げないかなー、と感じる。

ただもちろん、参考になるところはあった。私は23歳のとき50万円かけてイタリアとフランスに行ったけれど、これは40歳ではだめだったと思う。いや、だめではないけど、若い頃にした経験ほど、恩恵をその後の人生で長く享受できる。私が80歳で死ぬとして、23歳で経験したことは57年間恩恵を享受できるが、40歳で経験したことは40年間しか恩恵を享受できない。できるだけ若い頃に、お金を使ってその後の人生に残るような経験をしておくのがよい――この主張にはけっこう同意だ。