音楽の内向きの楽しみ方から、
外向きの衝動へ

『ベイビー・ドライバー』の劇中画像

 フェスでワイワイ盛り上がったり、肩を組んでみんなで合唱するのも音楽だ。でも、本作のノリはそれとは全く違う。イヤホンによって音楽と一対一で向き合う内向的嗜好が原動力として描かれ、インナーワールドを助長させる音楽の魅力が十分すぎるほど詰まっている。

 やがてその内向的な楽しみ方は、ベイビーが想いを寄せるデボラの登場によって外に向き始める。「逃げる」ための音楽に新たな光が差し込んでくる。二人でイヤホンをして心を通じ合わせていくことで、音楽がただアクション映画を盛り上げるものから恋の衝動へと変化を遂げる。

 ベイビーは今の仕事から足を洗い、デボラと恋の逃避行を決意するが、犯罪組織はそう簡単に許してくれない。そこで従来のアクション映画と大きく違うのは、命を大切に描いている部分だ。
主人公以外が虫けらのように死んでいく作品と違い、ベイビーは人間としての心を持っている。人が傷つくことを恐れ、ただ逃がし屋の仕事に従事する。それは母親への想いや、聴覚障害を持つ養父との関わりや、そしてデボラとの交流からも伺える。

 アクション映画から一歩引いた視点で描き、とはいえアクションシーンには容赦ない迫力をもたらすバランス感覚が、近年稀に見る興奮を味わせてくれる。

 音楽を聴くことで自分が強くなった気がする“あの感じ”が、初めて映画化された。
食べることと寝ることだけでは、もう人間は生きていけない。それ以外の原動力が必要なのだ。それが音楽にも映画にも求められている。

 はっきり言って、しばらくそれはこの作品一本で十分だ。

ストーリー

 天才的なドライビング・テクニックを買われて、犯罪組織の“逃がし屋”として働く若きドライバー・通称“ベイビー”(アンセル・エルゴート)は、iPodから流れる音楽によってその能力を発揮させる。

 子どもの頃の事故の後遺症で耳鳴りが止まないベイビーは、イヤホンで音楽を聴くことで耳鳴りが消え、まるで覚醒したように凄腕ドライバーへと変身する。

 ある日、ベイビーはレストランでウェイトレスのデボラ(リリー・ジェームズ)と運命的な出会いを果たす。音楽の趣味が合い、心を通わせていくうちに、犯罪組織から足を洗うことを決意するベイビー。だが、彼の才能を組織のボス・ドク(ケヴィン・スペイシー)はそう簡単に手放さない。逃がし屋としての新たな“仕事”が、ベイビーとデボラの未来を脅かす――。

8月19日(土)、新宿バルト9ほか全国ロードショー

監督・脚本:エドガー・ライト
キャスト:アンセル・エルゴート、ケヴィン・スペイシー、リリー・ジェイムズ、エイザ・ゴンザレス、ジョン・ハム、ジェイミー・フォックス
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
原題:Baby Driver/2017年/アメリカ映画/113分
URL:『ベイビー・ドライバー』公式サイト

前売り券
Text/たけうちんぐ

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