座って観たくない。もはや、叫びたい。恋の衝動がすごい『ベイビー・ドライバー』

『ベイビー・ドライバー』の劇中画像

 観終わると興奮が収まらず、まるで音楽を嗜むように2、3回リピートしたくなる。座って観たくない。立って拍手を送りたくなる。というかもはや、叫びたい。

 ハンドルを切り、アクセルを踏み、公道を突っ走る。そんな映画は今までに呆れるほどあったはずだ。でも、それとは全然違う。
ここまで音楽がもたらす衝動を映画にした作品は、いまだかつてあっただろうか?

 サントラが魅力的な映画は数あれど、サントラ自体が主人公の頭の中で鳴り続けるプレイリスト。
前代未聞のロックンロール・カーチェイスムービーが、それを作ることを10代の頃から夢見たイギリス人監督によって誕生した。

 『ショーン・オブ・ザ・デッド』『ホット・ファズ』など斬新な映像スタイルで支持されているエドガー・ライト監督が、舞台をイギリスからアメリカに移してとんでもない傑作を生み出した。
『きっと、星のせいじゃない。』のアンセル・エルゴートと『シンデレラ』のリリー・ジェイムズというトレンディな配役に加え、ケヴィン・スペイシーやジェイミー・フォックスといったベテランのオスカー俳優が名を連ねる。

過去のトラウマから「逃げる」

『ベイビー・ドライバー』の劇中画像

 オープニングのカーチェイスシーンから度肝を抜かれる。銀行強盗を“逃がす”ために、好きな音楽を奮起剤のようにイヤホンから垂れ流し、天才的なドライビングを見せつける。
音楽がBGMとして機能するだけでなく、完全に脚本に組み込まれたかのような必然性を持っている。

 映画にしかできない表現のオンパレードだ。
音楽と同期した編集センスは、銃撃戦までもピストルの撃つリズムがビートを刻む。アクション映画ではありえないことに振り付け師がいて、まるでミュージカルのようにキャラクターの動作が音楽と噛み合う。

 しかし、ただ単純にスタイリッシュな音楽映画ではない。音楽はイヤホンによって耳を塞ぎ、現実の厄介な喧騒から遠ざける効果を持つ。過去のトラウマから逃れるためにベイビーは大音量で耳を塞ぎ、今も亡き母親を想い続ける姿は“ベイビー”と呼ばれる所以だろう。

 誰にも知られたくない過去がある者だっている。“逃がし屋”の物語であることも、バディの過去がバッツによって暴かれるくだりも含めて、本作は「逃げる」ことがテーマになっているのだ。