心拍数が上がる。とめどない高揚感に打ちのめされる。一曲終わるごとに拍手をしたくなる。
夢を追う者・恋をする者なら誰もが、それらの条件を満たすセバスチャンとミアの歌声に耳を傾けるに違いない。ああ、この世に映画があってよかった。そんな感覚を抱き、歌とダンスに酔いしれ、心地よすぎて天に召されそうになる。
このロマンスは今、目の前にある景色をすべて一変させる。そして、ハリウッド映画の歴史すら変えるかも知れない。
ジャズドラマーと鬼教師の壮絶な掛け合いを描いた『セッション』で世界中を熱狂させた、32歳の若き天才デイミアン・チャゼル監督。その新作はなんとミュージカル。新境地とはいえ、彼の音楽映画ならではの得意技が盛り込まれている。
『きみに読む物語』『ドライヴ』のライアン・ゴズリング、『アメイジング・スパイダーマン』『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』のエマ・ストーンという超売れっ子二人が、それぞれ全く売れていないジャズピアニストと女優志望を演じ、歌とダンスでスクリーンを彩る。
あのトム・ハンクスでさえ、「この傑作を前に僕らはみんな絶望的な気持ちさ」と嫉妬するほど。アカデミー賞大本命と呼ばれる、確実に歴史に名を残すであろう名作の古参ファンになるなら今のうち!
役者の力を、映像の力を信じている
本編が始まってわずか5分間で大傑作だと分かる作品も珍しい。
大渋滞のロサンゼルスの車道で始まる歌とダンスからタイトルが出るまで、それだけで映画何本分か充実感が得られる。日本人だからミュージカルに抵抗ある? そんな方でもご心配なく。その不安は冒頭からあっけなく消し去られる。
オープニングの『Another Day of Sun』。この映像だけでもYouTubeにアップされたら、世界中で一気にバズること間違いなし。シュールとスペクタクルを兼ね揃えた、驚異のミュージカル映像に仕上がっている。その楽曲は夢を追うセバスチャンとミアの行く末を暗示し、「打ちひしがれても 立ち上がり 前向く」――そんな歌詞がいきなりクライマックスかよ、と言わんばかりの高揚感を引き出す。
ロサンゼルスの夜景を前に、プラネタリウムの星座を前に、もどかしさ、いじらしさ。ダンスの数々は恋がもたらす感情全てを余すことなく表現する。最初は互いにクソ野郎と思っていた。そんな古典的ラブコメのデフォを踏襲しながら、二人が気が付けば抱き合ってめくるめくミュージカルの新境地へ誘う。
その方法の一つに、唯一無二のセンスが光る撮影・編集がある。ミュージカルシーンでは極力カットを割らずに長回しで、ライブシーンでは『セッション』の編集を継承するように大量に割る。前者では役者の力を、後者では映像の力を信じている。そんな信頼関係が築かれつつ、物語の中で流れる時間を尊重し、映像でしか表せないリズムを切り刻んでいる。
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