「目を開いて、祈れ。」

たけうちんぐ 映画 マーティン・スコセッシ 沈黙 アンドリュー・ガーフィールド、リーアム・ニーソン、アダム・ドライバー、窪塚洋介、浅野忠信、イッセー尾形、塚本晋也、小松菜奈、加瀬亮、笈田ヨシ 2016 FM Films, LLC. All Rights Reserved.

 祈る時、人々は目を瞑る。目に見えない存在を信じるために、または己の精神に問いかけるために。しかし、フェレイラは弟子のロドリゴにこう言う。

「目を開いて、祈れ。」

 人の目に見えるもの、すなわち人であり、物であり、景色。その中に神は存在しない。目を開いて祈ろうとも、その相手がいない。それでも、ロドリゴは意を決してある選択をする。

 マーティン・スコセッシはこれまで多くの作品で狂信的に何かを信じ、何かのために魂を貫き通す人物を描いてきた。本作もまた自らの命を引き換えにして、自らの信念を天に捧げる人々が目を瞑る。それも、永遠に目を閉じることになる。もう二度とその目は開かれないだろう。

 熱心なキリシタンたちが次々と命を落としていく中、ロドリゴらが祈りを捧げる神は一体何を救うのか。
姿なき者を信仰する彼らが天から耳にする“沈黙”が、処刑の際の波しぶきを破壊音に、燃え滾る炎を炸裂音に聞こえさせる。断末魔が耳を突き刺し、痛々しく胸を打つ。ロドリゴは目の前にいる人々の命を救うため、神の絵を踏むのか。それとも――。
神と人間という根源的なテーマの先に描かれるもの。その一つの答えが姿を覗かせた時、壮大な景色の中で思わず“沈黙”してしまう。

 空を見上げても答えは映らない。地面を見ても何もない。エンドロールの演出は何を訴えかけるのか。 草木のざわめき、小鳥のさえずり、虫の鳴き声。それぞれが雄弁に語る中、神を信じる者たちの“沈黙”の中の叫び声。他人の信じるものを疑い、自分の信じるものさえ見当たらない時代に生きるなら、ここから聞こえる声を確かに感じ取る必要があるのかも知れない。

ストーリー

 17世紀、江戸時代の日本では幕府によりキリシタン弾圧が行われていた。日本での布教活動に力を注いでいた宣教師フェレイラ(リーアム・ニーソン)が捕らえられて棄教したことを知った弟子ロドリゴ(アンドリュー・ガーフィールド)とガルペ(アダム・ドライバー)は、日本人であるキチジロー(窪塚洋介)の手引きで長崎に潜入する。そこで、弾圧の中で虐げられる隠れキリシタンらの想像を絶する現状を目の当たりにする。
やがて幕府は取り締まりを強め、キチジローに裏切られ、ロドリゴたちも捕らえられてしまう。命の危険に晒されても、ロドリゴは信じる心を失わない。だが、棄教することでキリシタンたちの命を救うことができる。その狭間でロドリゴは自身の弱さと向き合い、究極の選択を強いられる。それでも、神は何も言わず黙ったままであった――。

1月21日(土)全国ロードショー

監督:マーティン・スコセッシ
キャスト:アンドリュー・ガーフィールド、リーアム・ニーソン、アダム・ドライバー、窪塚洋介、浅野忠信、イッセー尾形、塚本晋也、小松菜奈、加瀬亮、笈田ヨシ
配給:KADOKAWA
原題:Silence/2016年/アメリカ映画/165分
URL: 『沈黙―サイレンス―』公式サイト

前売券

Text/たけうちんぐ

次回は
<グザヴィエ・ドラン最新作!「もうすぐ死ぬ」と告げる主人公と家族『たかが世界の終わり』>です。

人気作家・ルイは自分が死ぬことを伝えるために帰郷する。だが、家族と他愛のない話をしていく中で告白するタイミングを失っていく——。カナダの若き天才グザヴィエ・ドラン監督の最新作