か弱さ×オタクっぽさ=「男の解体新書」

たけうちんぐ グッバイ、サマー ミシェル・ゴンドリー アンジュ・ダルジャン Partizan Films- Studiocanal 2015

 ダニエルとテオの手作りの車が走ることによって、忌々しい学校、家庭、恋愛の現実が景色とともに通り過ぎていく。残念ながら速度は遅いけど、その僅かながらの反抗が切実に思えてくる。

 行く先々のエピソードはどれもシュールな光景を呼ぶ。なんて言っても、“動くログハウス”のビジュアルがそうさせている。停車するとパタン! と家に様変わりする。アナログで安っぽい作りでも「パトカーがいる!さあ、バレないように車を家に変身させるのだ!」という風に、2人の間ではロボットアニメ風に車がかっこいいことになっている。恐らくヒーローの気分になっているのだろう。その純粋さがたまらなく笑いを誘う。

たけうちんぐ グッバイ、サマー ミシェル・ゴンドリー アンジュ・ダルジャン Partizan Films- Studiocanal 2015

 ダニエルとテオには、漫才のように片方のボケに片方がツッコミを入れるような常識が薄れている。両方ともボケであることで、スクリーンに向かってツッコミを入れるのが忙しい。
ミシェル・ゴンドリー監督特有のどこか気の抜けたムードが全編漂い、そこに“思春期男子のあるある”が随所に盛り込まれることで、少年2人の夏が特別な色で彩られていく。

 そして、一人の女の子への恋心が不器用さを極めている。この年頃の男の子は女の子よりも子どもっぽい。ダニエルのか弱さ、テオのオタクっぽさ。この2つが合わさると“男の子解体新書”とも呼べる。本作はもはや思春期男子の教科書として有り続けてほしい。

 物語はしっとりとした余韻を残す。それは晩夏のように物寂しく、青春の幕が降りるように切ない。
旅はいつか終わるし、いつか大人になる。まるで我が子のように錯覚して、2人と別れるのがたまらなく寂しく感じてしまう。
ユーモアと発想に溢れた奇想天外なこのロードムービーは、蝉が鳴き終わった頃の夏の終わりにぴったり。きっと、少年2人の“背伸び”に萌え死ぬことでしょう。

ストーリー

 ダニエル(アンジュ・ダルジャン)は華奢で小柄で、女の子みたいな容姿にコンプレックスを抱えている。学校で「チビ!」とからかわれる彼は好きな女の子にも相手にされず、悶々とした日々を過ごしていた。

 そんなある日、転校生のテオ(テオフィル・バケ)が同じクラスにやって来る。目立ちたがり屋の彼とダニエルは意気投合し、うんざりとした日常から抜け出すために計画を立てる。
それは家の形をした車“動くログハウス”を運転し、遠くの街まで行くこと。スクラップを集めて車を作り、2人は夏休みに史上最大の旅に出る――。

9月10日(土)、YEBISU GARDEN CINEMA、新宿シネマカリテほか全国ロードショー

監督・脚本:ミシェル・ゴンドリー
キャスト:アンジュ・ダルジャン、テオフィル・バケ、オドレイ・トトゥ
配給:トランスフォーマー
原題:MICROBE & GASOLINE/2015年/フランス映画/104分
URL:『グッバイ、サマー』公式サイト

Text/たけうちんぐ

次回は<オダギリジョー×蒼井優!人生で活躍できない男女の映画『オーバー・フェンス』>です
離婚をして故郷に戻り、目的もなくただ漫然と暮らす白岩。ある日、職業訓練校の仲間に誘われたキャバクラで、鳥の動きを真似る風変わりな女・聡に出会う——。オダギリジョー×蒼井優で描く静かな“再起”のドラマ。