たとえ嘘でも幸せを感じたならそれでいい?

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 興味深いのは安室のキャラクターだ。ひたすら人を欺く。憎めない人あたりの良さでいとも簡単に騙す。
七海はその嘘を知らない。絶望と幸福を行き来し、常に安室に翻弄される。それでも彼のおかげで、“嘘”の姉役・真白と出会い、人との繋がりに温もりを感じる。

 安室が仕切る結婚式の代理出席もまさに嘘が作り出した幸せで、バイトで出席する人も新郎新婦本人も、誰も不幸にならない。
安室のキャラクターは、まるで現代におけるSNSが果たす役割を具現化しているように感じられる。

 七海があっさり手に入れた結婚のように、SNSを使えば手取り早く幸せを掴むことができる。だが、その幸せには実態がない。いくらでも取り繕える文字や写真だけで構成されたものが、現代人の心の拠り所の象徴にも見えてくる。
それでも幸せを感じるなら、まぁ別にそれでいい。そんな本音を、結婚式の代理出席で七海の父親役を演じるおじさんがふと口走る。

「なんだか不思議なもので、本当の家族のように思えてきました」

 代理出席で出会った“嘘”の家族と仲睦まじく飲み、その満面の笑みに何の偽りがあるのか。嘘だと分かっていても、そこに幸福を感じることができたらそれでいいのかもしれない。
騙されながらも幸せに気づく七海の姿が、現代に生きる我々を励ましてくれるかのように健気に映るのです。

 よく映画で描かれる“真実の愛”というものに憧れるけど、現実は皆どこか本当の気持ちを隠しがちで、仮面を付けて日々をやり過ごす。真実の愛なんてフィクションの中だけに存在し、それこそ人を欺いているように思える。

 ここで描かれる“花嫁”が得る愛のほうがよっぽど現実的で、だからこそその笑顔に救われる。
たとえ嘘であっても、幸せになってほしい人が笑ってくれたらそれで十分なのかもしれません。

ストーリー

 東京で派遣教員をしている七海(黒木華)はSNSでいとも簡単に見つけた鉄也(地曵豪)と結婚することに。式に出席してくれる友人が少ないことから、七海はSNSがきっかけで知った「なんでも屋」の安室(綾野剛)に代理出席を依頼する。
やがて新婚早々、鉄也の浮気が彼の浮気相手の夫と名乗る者から知らされるが、逆に鉄也の母・カヤ子(原日出子)に浮気の罪を被せられ、家を追い出されてしまうことになる。

 行き場のなくなった七海に、安室は結婚式の代理出席のバイトを斡旋する。そこで知り合った“嘘”の家族の姉役・真白(Cocco)と仲良くなり、その後、安室に紹介された大屋敷の住み込みメイドの仕事でも一緒になる。
七海と真白の二人の奇妙な共同生活が始まるが、役者の仕事に情熱を燃やす真白は体調が優れず、日に日に痩せこけていく――。

全国公開中!

監督・脚本・原作:岩井俊二
キャスト:黒木華、綾野剛、Cocco、原日出子、地曵豪
配給:東映
原作/ 岩井俊二『リップヴァンウィンクルの花嫁』(文藝春秋刊)
2016年/日本映画/180分
公式サイト:『リップヴァンウィンクルの花嫁』

Text/たけうちんぐ