70歳の恋がこんなにラブリーだなんて!
前代未聞!70歳の女の子のラブコメディの誕生です。
そこで発見したのが、おばあちゃんの可愛さなんです。物知りで博識で世話焼き。可愛い顔して時折知恵袋を挟んでくるんだから、マルスンが自分のおばあちゃんだと知らない孫・ジハが若干ときめいてしまうのに笑ってしまう。
若者にはない言葉の引き出しと、良くも悪くも傲慢な態度。『猟奇的な彼女』以上に猟奇的というか、暴力的に人と接するルックスとのギャップは、そりゃラブコメディが生まれるわけです。
彼女のキャラクターに惹かれ、歌声に虜になった音楽プロデューサーとの淡い恋。これが息子以上、孫未満に歳が離れている相手。幼さが残る20歳のはずなのに、母性しか武器にできないマルスンの葛藤は切なく、胸に迫るものがあります。
歌手としての夢、新しい恋。女の人生に再び輝きが与えられる様がドラマチックで、若い頃に青春を謳歌できなかった彼女の喜びが切実に思えてくる。だって、恋なんてある一定の年齢を超えたら叶わない夢になってしまうんですから。
それを感じさせるのは、女の人生を球技に例えるオープニング。これが秀逸です。バスケットやラグビーのボールのようにいつまでも男に追いかけられるわけがない。いつかはボールを避けられて、一人寂しくバウンドする。挙げ句の果てに溝に落っこちる。
マルスンはどうでしょうか。若い外見を取り戻したら世間の対応がうって変わる。その可笑しさから、これはファンタジーの皮を被った超現実的な物語であることが分かります。
マルスンがなぜ、こんなおばあちゃんになったのか?
マルスンはとにかく口が悪い。「古希前のひよっこが!」「頭の毛をはいでやる!」と罵って、他人と亀裂を生みまくる。彼女を心底憎んでいる人だっている。
こんなに強気で傲慢で意地っ張りなおばあちゃん。ってかババア。おばあちゃんなんて呼ばせないクソババア。数々の悪事を働いてきたクソババアをとても好きになれないのに、なんで? クライマックスに向けて、彼女が愛おしく思えて仕方ないのです。
どうして、一人息子のヒョンチョルは優秀な子なのか。国立大学の教授で仕事ができる。それに嫁と息子と娘にも優しい。まるでマルスンから生まれたとは思えないが、次第にその意味と理由が分かっていく。
どうしてマルスンがこんな性格なのか。なぜなら、彼女はヒョンチョルを育てるために悪者に徹してきたからなのです。貧乏で飢えを凌ぐために備わった傲慢さ、強さ、意地の悪さ。自ら泥水を被り、息子にはきれいな水を与えてきた。ヒョンチョルの存在こそが、マルスンの人生そのものを表しているのです。