プリンセスの条件は、信じる心と寿退社

20代前半のわたしが仕事を続ける自信がなく、結婚に逃げたくなって失敗したことはこの連載の中でも書いた
あの頃結婚していれば、わたしは迷いなく仕事を辞めて専業主婦になっただろう。けれど、今ならどうだろう。もしじゅうぶんな収入の男性と結婚することになったとしても、仕事は辞められないと思う。この仕事はわたし以外にはできないから……なんて言えればかっこよかったのだが、もっと現実的で切実な話だ。わたしは経済的な自立を手放す勇気を失っている。お城を追い出された時や、お城に嫌気が差した時のことを、いやでも想像してしまうのだ。

今から2年ほど前、知人の女性が結婚した。彼女は非常に優秀で、わたしの中ではバリキャリの象徴でもあった。今の恋人との結婚を視野に入れているとは聞いていたけれど、わたしも周りも、彼女は結婚後も働き続けるものだとばかり思っていた。だが、結局彼女はあっさり仕事を手放して、はるか遠くのりんご農家に嫁いでいった。
「不安もあるけど、彼と家族を信じるよ」と笑った彼女に、コンプレックスが刺激された気がしてわたしはなんだか恥ずかしくなった。中途半端なキャリアにしがみつくわたしと、もっと大きく高く積み上げたキャリアをぽいっと捨てられる彼女。そうできるだけの愛が彼女にはある。専業主婦ではないけれど、たぶん、そういうものこそが、幼いわたしが憧れていた結婚だった。

twitterを見ていると、時折「ハイスペと結婚して専業主婦になる♡わたしのシゴトはワンちゃんのお世話と習い事♡」なんてキラキラしたツイートが流れてくることがある。先の知人女性と種類は違うが、相手を信じてすべてを賭ける度胸と純粋さを眩しく思う。
現代のプリンセスは、迷うことなく寿退社ができる女の子なのかもしれない。

プリンセスになれないし、そもそも結婚の予定もないわたしは、本日木曜も死にそうな顔で満員電車に揺られている。

Text/白井瑶

次回は <「普通の人がいい」・・・好みの人に飛び込めていたあの頃にはもう戻れないのか>です。
恋人に求めるものは千差万別ですが、中でも多く耳にするのは「普通の人」という答え。しかし、「普通」と判断する基準は曖昧で複雑です。年齢によって変化する価値観と思い描く未来。あの頃の「好きなら何でも許せる」ような恋愛はどこへ行ったのでしょう。