お前誰だ?現れたのは、とても柔軟で聡明な彼女

 カフェから飲み屋へと場所を変え、キレられるのを覚悟で満を辞して言ってみた。ユウカちゃんは今のところ、自分の予想外の質問や意見を言われると、露骨に嫌そうな顔をしていたから、言葉を選びつつ。

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 ハシャイでる人を見ても私は腹が立ったりしないこと。他人を小馬鹿にしたくならないこと、店で他人のハッピーバースデーが始まったら喜んで見守ること。合間に挟まれる「え?絶対嘘ですよ、偽善者ですか?」というディスりに、普通のトーンで何度も伝えた。

「いや、私はマジなんだ。だから、あなたがなぜそんなに人をバカにするのか、知りたい。わからない」と。

「いや嘘ですよね、何? 説教っすか?」

 私のマジトーンを何度もバカにし「いやいやいや」と意に介してくれない。「誰もが本当は他人をバカにしている」と譲らないユウカちゃんに、なんとか違う人間がいることを伝えたくて、「私はマジなんだ」と繰り返した。そんなやりとりがしばらく続くと、ユウカちゃんはサラッと驚くことを言った。

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「確かに、ハシャいでる人にだって何か理由はあるんですよねきっと。物事ってなんだってそうなんですよね」

 お前、誰だよ!笑 驚くほどに柔軟な発言が始まった。「そうやって人を受け入れることが、大人なのかもしれないですね」なんて、私を尊重する発言さえ続いた。いやマジで、お前誰だよ!笑

 自分の発言に自分自身でエンジンがかかったのか、これまでの女王様モードから一転、ものすごく身のある話が始まった。急激に、誠実な口調で。

「散々人に嫌われるし叩かれるけど、気にはしない。気にして自分を変えても、絶対うまくいかないって、経験で知ったからだと思います。だからもう、人には媚びないんです」

 ユウカちゃんは、自分の思いを表現する言葉をたどたどしく選んでいく。
どういう思いで文章を世に発信しているのか、はたまた今のユウカちゃんはどう出来上がったのか、なんてことを、ユウカちゃん自身が自分と向き合いながら答えを探し出した。

「人に媚びなくなったとき、すごく自分が強くなった気がして生きやすくなったんです。だから私は、人の言うことを気にするなってことを人に伝えたいんだと思います」

 放つ言葉が完全に変わったのがわかるだろうか。
それまでは、他人のことばかり話し、ただただディスり続けていた。「私はここまで到達したのよ」と鼻にかけたような模範解答を、繰り広げていただけだった。

 でも一転、彼女はすごく考えながら話すようになり、言葉に揺らぎが出て来た。迷いながら、言葉を選びながら、自分の言葉で自分の考えを語り始めた。そこに現れたのは、すごく柔軟で聡明な人間だった。

 きっと、私の異論が“ものすごく予想外”だった、からであろう。彼女はきっと、彼女の言葉に異論を唱える人にあまり慣れていない。全力ではねのけている、とも言えるかもしれない。

 事実、軽く異論を唱えた時は、拒否反応のように「は?」と言い見下した笑いを向けた。「絶対嘘ですよ」「説教ですか?」「本心は違うと思いますよ」と、こっちの意見に全く耳を貸そうとしなかった。
でも、こっちがはっきりと異論を唱えたら、彼女は柔軟になった。そして、私を信頼してくれた。

 今彼女を取り巻く人々は、彼女の毒を面白がるイエスマンばかりなんだと思った。彼女をこうしたのは、周りの大人なような気がしてきた。

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